嫌な流れを断ち切った島村の存在感 竹下佳江がバレー女子代表の初戦を解説

田中夕子

竹下さんがケニア戦の殊勲者に挙げたのが島村。相手に何度か傾きかけた流れをその度に引き戻したのが、このミドルブロッカーのブロックであり、攻撃だった 【Getty Images】

 ケニアをストレートで下し、大事な初戦をモノにしたバレーボール女子日本代表。立ち上がりにリードを許すなど盤石の試合運びとは言えなかったが、格下を相手に1セットも失わずに勝利を収めたことは評価できるだろう。日本代表の元主将で、五輪に3度出場した竹下佳江さんに、この試合の解説に加えて次戦以降の展望もしていただいた。
 

古賀の負傷退場でチームが動揺したときも

黒後と並ぶチーム最多の13得点を挙げた石川だが、それ以上に光ったのが質の高いサーブだ 【写真は共同】

 まず3-0で勝てたこと、緊張もある初戦できっちりストレートで勝てたことは大きかったですね。

 試合の立ち上がり、籾井(あき)選手のトスが全部離れていたり、正直「大丈夫かな」と思う場面もありましたし、実際ケニアに3-6でリードされる場面もあった。オリンピックに出場するチームはどこも強豪とはいえ、日本にとってケニアは勝たなければならない相手です。

 ケニアは監督が代わってから、チームとして組織的な動きが目立つようになり、ブロックやディフェンスが予想以上にとても良かった。それは事実です。でも日本はメダルを狙う以上、ランキングで見ても大きく日本が上回るケニアにたとえ1セットでも与えてしまうのは許されない(世界ランキングは日本が5位、ケニアが24位)。3-0か3-1か、同じ勝ちでも意味は異なるので、きっちり3-0で勝てたことはまず良かった、と言えるのではないでしょうか。

 この試合で特に存在感が光ったのは、ミドルブロッカーの島村(春世)選手です。

 アウトサイドヒッターの古賀(紗理那)選手、黒後(愛)選手、石川(真佑)選手に比べればミドルブロッカーは地味に見えるかもしれませんが、ケニアにリードされた試合の立ち上がりで、嫌な展開を変えたのが石川選手のサーブと、「ここで欲しい」という場面で出た島村選手のブロックポイントです。

 ネーションズリーグからほぼメンバーが固定され、このチームではアウトサイドヒッターの3人が絶対的な存在です。でもだからこそ、実はそのなかでミドルの島村選手、荒木(絵里香)選手が果たす役割が非常に大きい。2人はこのチームで数少ない五輪経験者でもあり、プレーに安定感がある。ケニア戦でも、嫌な流れが続いたときにそれを絶ち切っていたのが島村選手のブロックであり、ライトへ移動しての速攻でした。

 特に第3セット、10-8と日本が2点リードした場面で古賀選手が負傷退場するアクシデントに見舞われ、言葉や表情に出さなくてもチーム内には少なからぬ動揺がありました。実際その後に3連続失点を喫し、ケニアにリードされる状況を作ってしまいましたが、そこでも島村選手の攻撃、ブロックが着実に日本に流れを引き寄せた。派手さはなくとも、今日の試合で島村選手が果たした役割はとても大きなものでした。
 

次のセルビア戦はまずサーブで攻めて勝機を

気掛かりなのが負傷退場した古賀の状態だ。このまま離脱という事態になれば、日本は中心選手のひとりを欠いた状態で残りの試合を戦わなければならない 【写真は共同】

 1日空いて、次戦(27日)はセルビアが相手です。

 ネーションズリーグや2019年のワールドカップとは全くメンバーも異なり、18年の世界選手権を制したメンバーが主体。まさに世界トップのチームで、高さ、パワーという個々の力だけでなく非常に完成度の高い、金メダルを獲りに来たチームです。

 その相手に対してどう戦うか。ケニア戦のようなミスが出るようでは、正直厳しい。相手のブロックが想像以上に良かったとはいえ、ブロック失点も多く、相手のスパイクも自チームのブロックに当てていながらボールをつなげることができない、ブロックのミスタッチもケニア戦では多く見られました。ブロックとレシーブの関係も、初戦の緊張感があったとはいえ、目で追ってしまう場面も多く、2戦目以降も同じようなプレーをしていてはかなり厳しい。緻密なバレーを展開したい日本にとっては、さらに精度を高めなければ太刀打ちできない相手ばかりです。

 さらに、古賀選手のケガの具合も気になります。

 まずは大事に至らないように、というのが一番ですが、今大会、日本はアウトサイドヒッターが5人、ミドルブロッカーが4人なので、もしも次の試合に古賀選手が出場できないとなれば、リザーブのアウトサイドヒッターは1人しかいません。リオ五輪にも出場し経験のある石井(優希)選手と、林(琴奈)選手。どちらも力はある選手なので、それぞれの役割を果たしてくれると期待していますが、この布陣でこれからどう戦っていくか。そこも一つ、注目するポイントになりそうです。

 繰り返すようですが、セルビアはとにかく強い。勝つのはとても難しい相手ではありますが、だからこそ勝機を見いだすためには、まずサーブで攻める。パスを返され、思い通りに攻撃展開されれば、ただでさえ決定力の高い選手がそろう相手に太刀打ちできない。そうさせないためには、ケニア戦の石川選手のように、とにかくいいサーブで攻める。パスが崩れても打ってくる選手がそろってはいますが、ブロックとレシーブの関係の精度をより高めて、1本でも多くつなぐ。

 這いつくばって、という言い方が合っているかどうかわかりませんが、とにかくつないでラリーを制する。日本が勝つためには、これに尽きるのではないでしょうか。
 
(企画構成/YOJI-GEN)
 

竹下佳江(たけした・よしえ)

元バレーボール女子日本代表。159センチと小柄ながら、世界的なセッターとして長く日本女子バレー界をけん引し、五輪には3度出場。自身2度目の五輪となった2008年北京大会ではキャプテンも務め、12年ロンドン大会では1984年ロサンゼルス大会以来となるメダル獲得に大きく貢献した。13年に現役引退。16年には新設されたプロチーム、ヴィクトリーナ姫路の初代監督に就任。19-20シーズンまでチームを率い、現在は取締役球団副社長を務める。テレビ解説、バレーボール教室などでも活躍中。1978年3月18日生まれ、福岡県出身。
 
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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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