元なでしこ宇津木瑠美のイギリス戦解説 「塩越は90分間プレーさせたかった」

吉田治良

クロスをエースのホワイトに合わせる“分かり切った攻め”から、74分に痛恨の失点。後半にギアを上げてきたイギリスに、なでしこジャパンは対応できなかった 【Photo by Masashi Hara/Getty Images】

 ドローに終わった初戦のカナダ戦からスタメンを5人変更し、イギリスとの第2戦に挑んだなでしこジャパンだが、“日本キラー”のホワイトにゴールを許し、手痛い敗北を喫した。まずまずの出来に映った前半から一転、後半は防戦一方となった原因はどこにあったのか。元なでしこジャパンのMFで、2011年女子W杯の優勝メンバーでもある宇津木瑠美さんに、分析していただいた。

イギリスの術中にはまった印象が強い

サイドではなく前線でプレーした長谷川だが、ボールに触れる機会は限られた。5人の交代枠をもっと有効活用すれば、流れを変えることもできたのではないか 【写真は共同】

 ひとつでも勝点を取ることが重要な試合であり、大会でもあるので、それができなかったことがすべてでしたね。

 カナダ戦からスタメンを5人入れ替え、前半はセカンドボールへの対応や、数的優位を作る守備といった課題は修正できていたように見えましたが、後半の立ち上がりからイギリスがギアを上げてくると、それには対応できませんでした。

 つまり、日本がうまくやれていたというよりは、イギリスが90分間をトータルで考えてゲームのシナリオを作り、その術中にはまってしまった印象のほうが強いんです。

 イギリスは前半、どちらかというとロースピードのショートパスが多かったのですが、後半に入るとワンタッチ、ツータッチで大きく展開し、シンプルにサイドからエースの(エレン・)ホワイト選手にクロスを入れる、本来のメリハリのあるプレースタイルに変えてきました。そこからこぼれ球を拾ってシュート、そしてコーナーキックを取るという形を徹底してやってきた。

 イギリスのアーリークロス攻撃に対して、日本はもう少し高い位置からプレッシャーをかけて上げさせないようにするのか、あるいは中を固めてセカンドボールを拾うのか、そのあたりが戦術的に徹底されていなかったように思います。先手を取るのか、一度受けてカウンターを狙うのか、もっと明確にすべきでしたね。

 それがイギリスの強みだというのは、戦う前から分かっていたのに、結局その形からやられてしまったのは、すごく悔しい。カナダ戦と比べて日本の選手たちは集中力も高かったし、良いプレーもしていただけに、なおさら分かり切ったスタイルに対応できなかったことが残念です。

 こういった試合だからこそ、菅沢(優衣香)選手を投入してパワープレーを仕掛けてみるようなトライをしても良かったかもしれません。今日は長谷川(唯)選手がボールに触る機会が少なく、攻撃のリズムを作れませんでしたが、そういった意味でも、5人の交代枠を有効に使い、いかに90分間のゲームプランを立てて戦うかが重要だったと思います。

 失点シーンに関して言えば、こうした大きな大会でゴールキーパーを代える(池田咲紀子→山下杏也加)という難しい決断を下したわけですから、中島(依美)選手と山下選手との間で、必要以上に声を掛け合わなくてはいけなかった。もちろん、注意をしていても防げない失点はあるわけですが……。

 ホワイト選手とは、私も何度となく対戦しましたが、彼女の凄さは、90分間を通してすべてのクロス、すべてのチャンスに対して反応し続けるメンタリティーとフィジカル。ワンチャンスを確実に決めてくる怖さは健在でしたね。

 後半途中から入った椛木(結花)選手と遠藤(純)選手も目立ちませんでしたが、たしかにイギリスがアーリークロスを上げてくるので、サイドでボールを持てる時間は少なかった。ただ、例えば椛木選手にボールを集めたいなら、遠藤選手がいつも以上に長い距離を走って相手を狭いサイドに追い込むような守備をするなど工夫をしていれば、もう少し違った状況も作れていたかもしれません。

ゴールの雰囲気を漂わせていた塩越

身体の強さを生かして、個の力で局面を打開していた塩越。55分での交代となったが、宇津木さんは「90分間プレーさせても良かった」と語る 【写真は共同】

 今日の日本には、積極的にミドルを打つなど、シュートの意識は見えました。あとはドリブルで仕掛けてペナルティエリアに進入するとか、しつこくサイドから崩していくのが日本の持ち味なので、そういったプレーをもっと見せてほしいですね。その延長線上にゴールはあると思います。

 残念だったのは、塩越(柚歩)選手を後半の早い時間帯(55分)に下げてしまったこと。彼女はすごく身体が強いし、個の力で打開してファウルも取れる。プレーの予測が難しい選手で、画面越しにもゴールチャンスが転がり込んできそうな雰囲気を感じたので、個人的には90分間プレーさせても良かったように思います。

 80分から投入された岩渕(真奈)選手はさすがの存在感で、彼女が入ってからガラリとテンポが変わりましたね。もちろん“岩渕頼み”ではいけないですが、それだけの影響力を改めて感じました。コンディション次第でしょうが、次のチリ戦でも期待はしていますし、彼女の場合は日本のエースですから、やってもらわなくては困ります。

 ただ、岩渕選手のボールを持ったときの怖さは、すでに世界的に認知されているからこそ、周りの選手たちが彼女を囮(おとり)にするくらいの気持ちで積極的に仕掛けて、貪欲にチャンスに絡んでほしいですね。

 あとは、何よりも気迫のこもったプレーが見たい。今日だって、最後はイギリスの選手のほうが声は出ていましたからね。

 もし、あの状況で私がピッチに立っていたら、もっと激しくボールを奪いに行って、イエローカードをもらってしまっていたかもしれません。負けている試合の残り10分、みんなの顔がもう少し必死になってもいいんじゃないかと思うんです。

 絶対に勝利が必要な次のチリ戦で、内容以上に求められるのは、気持ちを前面に出した、魂を感じさせるようなプレーなんです。次のパス、次のシュート、次の試合ではなく、「今、自分たちができることは何か」という部分にフォーカスしてプレーすれば、きっと結果はついてくると信じています。

(企画構成/YOJI-GEN)

宇津木瑠美(うつぎ・るみ)

1988年12月5日生まれ、神奈川県川崎市出身。2歳からサッカーを始め、14歳でなでしこリーグの日テレ・ベレーザに入団。21歳でプロに転向すると同時に、フランス女子リーグのモンペリエHSCに移籍する。正確な左足を武器とするMFとして世代別代表でも活躍し、16歳で初選出されたなでしこジャパンでは、2011年女子W杯優勝、15年女子W杯準優勝に貢献した。16年にアメリカのシアトル・レイン(現OLレイン)に加入。身長168センチ。
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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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