ベイスターズ再建録―「継承と革新」その途上の10年―

ぶつかり合う「現場」と「球団」の考え 中畑清が激怒した、前代未聞のチケット

二宮寿朗
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注目された新ユニフォームは1998年の日本一をモチーフにした白地にピンストライプが採用された 【写真は共同】

 やると決めたらすぐにやる。早い行動は実にIT企業らしい。

 「継承と革新」は、チームでも。2012年シーズン、注目された横浜DeNAベイスターズの新ユニフォームは1998年の日本一をモチーフにした白地にピンストライプが採用された。コーチングスタッフに目を移しても、山下大輔、高木豊という偉大なOBたちを呼び戻している。この継承路線は、変化を注視していたこれまでのコアファンの胸を撫でおろさせた。

 OBを大事にする。これは中畑清にとって願ってもないことだった。監督就任時、球団に要請していたことだ。

「ベイスターズはもっとOBを大切にすべき。キャンプでも線が引かれて、それ以上中に入っていけない。部屋も用意されていない。プロ野球のOBに対してもそう。もっと見に来てもらえるような環境にしないといけない」

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 キャンプからにぎわいを見せ、多くの人に見られていることによって選手の意識も変わってくる。オープン戦の初戦は読売ジャイアンツ戦だった。中畑は試合前に選手を集めた。

「俺はジャイアンツに大変世話になった。でもきょうここで決別する。俺の気持ちを少しでも汲んでくれるなら戦う集団になってほしい」

 オープン戦とはいえ初陣に勝って「これからはジャイアンツファンに嫌われる男になります!」宣言は、メディアにも大きく取り上げられた。オープン戦3位という成績は、チームのポジティブな変化をあらわしてもいた。
 監督は営業本部長。

「メディアに取り上げてもらってナンボ」と言い切る中畑はいかなるときでもメディアに出て、どれだけ大きく扱われたかをチェックした。「熱いぜ!横浜DeNA」のスローガンも、いろんなバージョンに及んでいく。機動力野球を掲げたら「せこいぜ!」。それでも扱われることが中畑にとっては大事であった。

 ただ戦力はセ・リーグの他球団と比べると一枚も二枚も落ちる。厳しい戦いになることは中畑も覚悟のうえだった。阪神タイガースとの開幕3連戦こそ1勝1敗1分けで乗り切ったものの、 4月4日からは6連敗を喫した。ノーヒットノーランを食らい、46回連続無得点は球団ワーストに。気がつけば指定席の最下位に落ち着いてしまう。

〈こりゃあ100敗するな。だったら100敗すればいいじゃん〉

 心の声が胸に響いた。開き直れた気がした。選手にも「あきらめないで戦うことができたら、 100敗して構わない」と伝えた。カラ元気ではない。あきらめない姿勢をファンに見せることが大事なんだと己にも言い聞かせた。

 DeNAに体制が変わったからといって、人気者の中畑が監督になったからといって、急激に来場者が増えるわけではない。球団はファンを呼び込むためにユニークなイベント、チケットを打ち出していくようになる。

 前代未聞のチケットが、ベイスターズファンを、いやプロ野球ファンをざわつかせた。

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著者プロフィール

1972年、愛媛県生まれ。日本大学卒業後、スポーツニッポン新聞社に入社し、格闘技 、ラグビー、ボクシング、サッカーなどを担当。退社後、文藝春秋「Number」の編集者を経て独立。 様々な現場取材で培った観察眼と対象に迫る確かな筆致には定評がある。著書に「 松田直樹を忘れない」(三栄書房)、「中村俊輔 サッカー覚書」(文藝春秋、共著)「 鉄人の思考法〜1980年生まれ、戦い続けるアスリート」(集英社)など。スポーツサイト「SPOAL(スポール)」編集長。

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