連載:『やべっちF.C.』の功績 新番組『やべっちスタジアム』の全貌

やべっちが見抜く解説・中山雅史の本質 相方・岡村さんとゴンさんの共通点は…

馬場康平

矢部さんを知らんぷりした上田綺世

今季のJリーグで最も印象に残ったFWを語り合う矢部さんと中山さん。「もっと化ける」あの選手と、「何それってプレーもある」あの選手の名前が挙がった 【浦正弘】

 さらに、矢部さんに「岡村隆史さんと、ゴンさんの共通点はありますか?」と振ると、「うーん」とうなって、「真面目」と答えた。

矢部「仕事に真面目。さっきの話でも、相方は打ち合わせでメモを書くタイプです。僕は書かないです。そこで、なるほどって思うタイプなので」

中山「僕もそうありたいとは思うんです。でも、一応書いて、ある程度の骨組みや、芯は持っておかないといけない。書いた方がイメージとして残る。困ったときにコレでいけるという部分が確認できるから。それがないと不安なんですよね」

矢部「ゴンさんは、バラエティーも出はるけど、自分が決めたキャラをどんな相手にでもやるんですよ。これをやると決めたら、どんなMC相手でも。もし、僕がMCのいる番組に出たら、きっと合わすんですよね。相手の出方とか、空気で」

中山「なるほど、やっぱり中盤(の出身)ですね。相手の攻め方、守り方を見て振り分けていく。でも、FWは相手がどうだろうと、まず行かないといけないから」

矢部「絶対に間違いないと思うんですよ。このポジションによって、個性が出る説は!」

 そんなふたりに、今季のJリーグで最も印象に残ったFWを聞いた。すると、矢部さんは上田綺世(鹿島アントラーズ)を挙げて、「もともと才能ある選手ですけど、もっと化けるぞ。モンスターになれると思ってるんです。キープもできるし、えげつない飛び出しとか抜群なんです」と言い、こんなエピソードを明かした。

「一回、テレ朝ですれ違ったんですけどね。パッと目が合った瞬間、すぐにそらされたんです。それで近づいて『見てるよ、いつも』って声かけたんです。でも、『一回、目そらしたよね(笑)』って言ったら『ハイ、本物やと思って一回知らんぷりしてしまいました』って。そういう正直なところもかわいいですね」

 一方で、ゴンさんが選出したのは、今季J1得点王争いを独走する怪物ストライカーだった。

「僕はオルンガですね。ちょっと規格外ですよ、あのスピードは。『自分が、自分が』というプレーもあるんだけど、状況をしっかりと見極めた上でのパスもある。その場に応じたキック、プレーの選択ができるから、後ろから来たボールを足の裏で流し込んだり、『何それ』ってプレーもある。ボールを預けたらDFふたりを引きつけてくれるし、引きちぎってもくれる。置き去りにしてくれれば、誰かがフリーになるわけですから。なかなかいないですよね、あんな選手は」

 矢部さんは、ゴンさんのオルンガ評を聞き終えると、「確かに、そうなんですよね」と言い、最上級の賛辞を贈る。

「オルンガって柔らかさもあって、FWやのに“エロい”プレーを持っていますよね」

ゴンさんにはざっくり振った方がいい

沈黙は怖いけど、あえて中山さんを生かすために黙る矢部さんと、沈黙が怖いから、その間をしっかり埋める中山さん。そこには信頼関係がある 【浦正弘】

 そして、個性豊かな解説陣の良さを引き出してきた矢部さんのスゴさが、この対談でも垣間見える瞬間があった。この日は、一歩下がった立ち位置に変え、ゴンさんの個性が際立つように言葉を足していた。相手の個性に合わせて、立ち位置を変える柔軟さが矢部さんにはある。長年、連れ添った相方の岡村さんを引き立たせ、いかに番組を一番いい形に落とし込めるかを模索してきたからこそなのだろう。その掛け合いの妙も、またプロフェッショナルだった。

矢部「ゴンさんって僕からしたら振りがいらないんです。まず、ゴンさん発信でやってくれるから。余計な振りをしたら、トークの幅が狭まるじゃないですか。考えさせたらあかんなって。ゴンさんはフリースタイルが一番いいんですよね。出てきたものに、ちょっとフォローするのが、ゴンさんがゲストに来てくれたときの僕のスタイルですね。ゴンさんは自由で、スペースがあった方がいい。生放送だからなかなかできないですけど、黙ってあげた方がいいんです。怖いですよ。怖いけど……ゴンさんやったらなんかしゃべると思うんです」

中山「沈黙は怖いですから(苦笑)」

矢部「ゴンさんにひと言お願いしますって言ったら、何でも返してくれる。『コレに関してどうですか?』と言うよりも、『ゴンさん、お願いします』ってざっくり振ったりして、広めのレンジの方がいい。ボケのタイプによって『どう思う?』って聞くのか、『今のこのボケ、どう思う』って振ってあげた方がいい場合がある。ストライカーは、たとえ何十回外しても1点決めればいいので」

中山「求められたコメントや行動が取れたとき、それが必然であるならば、それまでやってきた偶然があったからこそ必然になる。それは偶然の賜物ではなく、常にやっていたからこその必然なんです。だから、どれだけゴール前に詰められるか。一本来るか来ないかというところに体を持って行けるか。それを決めたらそんなの偶然そこにいたからと思われるかもしれない。でも、毎回そこに走り続けていたら、それは必然なんです」

矢部「90分間、基本的なことを強い気持ちで繰り返してきた人ですよね。なかなかできないんです。ゴンさんにみんなが惹かれるのはそういうところだと思うんです。だから、日本人はみんな、ゴンさんが好きなんですよ。それに、数々の奇跡を起こしてきた人だから信じられる。説得力があるし、なんかをやってくれる。やれなかったことがほとんどかもしれない。でも、それができた大事な1試合があったら、それは残るじゃないですか。だから、僕もパスを送り続けるんです。そう思ったら一回で決めてくれなんて思ってないかもしれないです。どこかで1カ所、光る何かがあったらいいと思っているくらいで」

『やべスタ』初登場となった中山さんは本番終了後、「緊張しましたよ。しっかり解説できるかなと思ってたんで」と、安堵の声を漏らした。入念に準備していた解説パートは「一番うまくいったんじゃない!? 本番はいつもダメなんだけど、今日はすんなりいったね」と、周りのスタッフを笑わせた。そうやってルーティンワークを徹底するゴンさんと、その個性を引き立たせる矢部さんのMC力。プロフェッショナルなふたりに、どこか色気を感じると思いません? 思わず、矢部さんの言葉を借りてこう言いたくなった。

「ほんま、エロいわ」

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著者プロフィール

1981年10月18日、香川県出身。地域新聞の編集部勤務を経て、2006年からフリーに。現在、『東京中日スポーツ』等でFC東京担当記者として取材活動を行う。2019年に『素直 石川直宏』を上梓した。

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