NPB斉藤コミッショナーが語る特別な1年「プロ野球をやらない選択肢はなかった」

田尻耕太郎

いつまでも「ステイホーム」でいいのか

斉藤コミッショナーは「プロ野球の灯を絶やさず継続することが大切」だと、各球団のオーナーにも訴えた 【スポーツナビ】

――そういった中で6月19日に無観客で開幕を迎えました。しかし、無観客での開催は球団経営の視点に立てば大きなダメージとも考えられます。特に斉藤コミッショナーは経済の専門家です。大変な葛藤があったのでは?

 現在のプロ野球は、以前のような親会社の広告宣伝的な役割から脱却し、最近はほとんどの球団が努力によって黒字になりました。そんな中で迎えた今年。各球団のオーナーが大変な思いをしているのは承知の上でしたが、無観客でも開催しましょう、プロ野球の灯を絶やさず継続することが大切じゃないですか、とお願いを致しました。

 野球は100年近い歴史のあるスポーツです。日本のプロ野球は1934年に正力松太郎氏によって巨人の前身になる大日本東京野球倶楽部が生まれ、1936年にリーグ戦が始まりました。ただ、日本の野球の歴史自体はさらに古くからありますし、このところは実はもっと早くからプロ野球は作られていたという書類が見つかったというお話も聞きました。

 スポーツは人々の心や生活を豊かにします。どのスポーツにも言えることかもしれませんが、野球にはこれだけの歴史があり、日本の文化になっていると私は考えております。人々の心に沁(し)みついている野球を絶やしてはいけないと思いました。ならば、たとえ無観客でもプロ野球をテレビなど各種メディアで中継をしていただければ、国民のみなさんに喜んでいただけるはずだと思い、テレビ関係者の方々にお願いをしに行きました。メディア関係にもご協力を頂いて、いろいろな手段で放送もしていただきました。

――スポーツ界のトップランナーであるプロ野球が、世の中の指針になった部分も大きいと思います。

 今年のコロナ禍の中、4月に緊急事態宣言が発令され、我々は「ステイホーム」を余儀なくされました。ウイルスは未知のものですし、現在もすべてが解明されたわけではありませんが、あの当時は今以上に分からないことだらけ。病気が広がらないためには致し方ない部分はありました。

 しかし、いつまでも「ステイホーム」でいいのか、という思いは抱いていました。家に引きこもってばかりだと、人間の心は痛んでしまいます。家庭の中でみんな暗くなるし、私は経済界にいた人間ですから、このままでは日本経済は死んでしまうとの懸念も持っていました。

――海外ではいまだ無観客開催を余儀なくされている中、日本では各スポーツやイベントが有観客開催へと舵を切りました。1年延期された東京五輪開催への指針にもなるのではないでしょうか?

 このガイドラインがひょっとしたらオリンピックにも使えるのではと、私自身も途中から考えるようになりました。まだ今後のことは正式に決まっていませんが、日本でオリンピックが開催できる機会は数十年に一度です。それを開催国が諦めて放棄してしまうのは私は違うと思います。やはり、どうすればやれるのかを考えることが大切なのではないでしょうか。

 もちろんIOC(国際オリンピック委員会)やJOC(日本オリンピック委員会)の方がすでに真剣に考えておられると思うので、余計なことかもしれませんが、我々プロ野球が身をもって経験をしたコロナ対策のガイドラインが世界中の選手や観客の皆様に役立てられるのではないかと考えています。そのため、NPB事務局にも新たな情報に常にアンテナを張って、頻繁にガイドラインを作り替えることもお願いをしております。

9月19日から観客の入場制限が緩和されたプロ野球。新しい観戦スタイルの中で興行を楽しみたい 【写真は共同】

――まだ楽観できる状況ではありませんが、今季もまもなく終盤戦です。現在の想いも聞かせてください。

 まずは無事に今シーズンが完走できること。毎日祈っていますよ。野球選手は若いし、やはり一人の人間ですから、ときに気を緩めたくなる気持ちは分からなくもないです。しかし、本当に新型コロナウイルスというのは不思議なもので、ちょっと気を緩めると発症者が出てしまう。選手や首脳陣をはじめ、プロ野球に従事するあらゆる関係者には改めて自己管理をお願いしたいです。球場に観戦に来られる皆様も昨年までと同じスタイルで応援できず、ご不便な部分はあると思いますが、新しい観戦スタイルの中で変わらずプロ野球を楽しんでいただければ幸いです。

 プロ野球のペナントレースも終盤となり、特にパ・リーグは混戦模様で優勝争いが盛り上がっていきそうです。日本シリーズの熱戦も楽しみにしております。

 また、今月末にはドラフト会議が開催されます。担当地区の保健所と連携し、開催方式などは具体的に決まっております。その他野球振興についても、年内についてはプランも作り上げています。しかし、こちらは各自治体や保健所などとまだ調整が必要な部分もありますし、なによりお子さまから感染者が出たら大変なので、作ったプラン通りに進められるかを常に検討しているところです。

 また、我々は来季のことも考えていかなければなりません。キャンプの開催可否もそうですが、その前の自主トレも、海外を希望する選手はどうするのか、施設の消毒などは、と次々に課題は出てきます。いずれもNPBが一方的に決められることではなく、選手たちの理解も必要なので、現場サイドや各球団と議論を進めながら、慎重かつ、できるだけ早急に示していきたいと考えております。

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著者プロフィール

 1978年8月18日生まれ。熊本県出身。法政大学在学時に「スポーツ法政新聞」に所属しマスコミの世界を志す。2002年卒業と同時に、オフィシャル球団誌『月刊ホークス』の編集記者に。2004年8月独立。その後もホークスを中心に九州・福岡を拠点に活動し、『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)『週刊現代』(講談社)『スポルティーバ』(集英社)などのメディア媒体に寄稿するほか、福岡ソフトバンクホークス・オフィシャルメディアともライター契約している。2011年に川崎宗則選手のホークス時代の軌跡をつづった『チェ スト〜Kawasaki Style Best』を出版。また、毎年1月には多くのプロ野球選手、ソフトボールの上野由岐子投手、格闘家、ゴルファーらが参加する自主トレのサポートをライフワークで行っている。

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