水田光夏が射止めるわずか0.5ミリの標的 パラ射撃で自身と戦う恒心のスナイパー
緊張とは無縁なだけに、向上が望まれるスイッチの入れ替え
自身をまったく緊張しないタイプと語る水田は、インタビュー中も理路整然とした受け答えで終始リラックスした様子だった 【写真:C-NAPS編集部】
しかもイリーナは、強いのはもちろん、ルックスも可愛いんですよ。年も近いのでインスタグラムでよく連絡を取り合っています。彼女は英語がとても上手なんですけど、東京パラリンピックに向けて「日本語も勉強したい」と言っています。「今こういう言葉がはやっているよ」と私が教えてあげることもあるんです。写真を送り合った時には「カワイイ」「アリガトウ」という返事をくれるので、やりとりがすごく楽しいんですよ。
イリーナは試合で落ち着いていると話しましたが、私自身も実はまったく緊張しないタイプなんです。物心ついた時から緊張した記憶がなくて(笑)。小さい頃からバレエやピアノで人前に立つことに慣れていたのもあるかもしれませんね。「こうなったらどうしよう」と考えるのではなく、「こうなったら次は何をしよう」と考えるので、試合前に不安にはならないですね。もし大きく外してしまったとしても、それは結果として残るので、いかにリカバーするかが大事だと考えています。
ただ、最近はあえてテンションを上げる取り組みをしているんですよ。落ち着きは私の強みでもありますが、朝起きた時と試合前で本当に心拍が変わらなくて。試合への気持ちを作り、集中力を高める取り組みが必要だと思ったんです。それからは、試合前にアップテンポな音楽を聴くようになりました。お気に入りはK-POPで、BTSやSEVENTEENの曲をシャッフルして気分を上げています!
パラリンピックでの自己ベスト更新で、支えてくれた人たちに恩返しを
日常生活においても競技においても不可欠なのが母・光美さんの存在。水田が全幅の信頼を寄せる相手だ 【写真:C-NAPS編集部】
そして、なくてはならないのが母の存在です。普段は食事面をサポートしてくれて、大会になると荷物の運搬や準備も全部やってくれます。まさに二人三脚なので、今いなくなったら本当に困りますね。母だけでなく、競技を始めた時からお世話になっている鳥居健コーチに恩返しをするためにも、東京パラリンピックでは自分のすべてを出し切りたいと思っています。
本番での目標は「自己ベストの更新」です。順位やメダルは、他の選手の結果によっても左右されますよね。でも、自己ベストは自分との戦いに打ち勝つことなんです。他者と比較したうえでの「相対評価」ではなく、自分自身のベストを尽くしたうえでの「絶対評価」にこだわりたいですね。私は大きな目標を立てることが苦手なので、目の前のやるべきことをクリアして最終的なゴールにたどり着きたいと思います。
また、自分が活躍することで競技の普及にも貢献したいですね。パラ射撃は今、国内に同世代の競技者がいないので、少しでも多くの人に知ってもらいたいです。同世代の選手が増えたらきっと、私にとっても今後のモチベーションにつながると思います。そういう意味でも、来年のパラリンピック本番が今からとても楽しみです。
新型コロナウイルスの影響で、東京パラリンピックは1年延期されました。来年の開催も不安視される報道が続いていますが、どの選手も人生をかけて4年間やってきているのでその努力が報われてほしいですね。選手の1人として私もそう願っています。
(取材・執筆:久下真以子)