連載:GIANTS with〜巨人軍の知られざる舞台裏〜

キャリア官僚から記者…異色の経歴生かす 巨人の“安全”担当「誇りに恥じぬよう」

小西亮

「作り手の情熱は、人数の大小に関係ない」

記者としてスポーツの現場も多く取材した(右から2人目が山田さん) 【提供:読売新聞社】

 初任地の岩手では東日本大震災の取材を経験し、社会部などを経て運動部で千葉ロッテマリーンズの担当に。日々のチーム取材の一方で、斬新な企画を打ち出してファンを呼び込む球団の姿勢が目に留まった。

「いろいろ頭を捻らせてやっていて、興行というものにすごく興味を持ちました」

 その情熱が、編集から事業へと局をまたぐ比較的めずらしい異動につながった。「念願だった野球興⾏に携われると思ったら、こんな状況だとは思ってもみませんでしたけどね」。山田さんは少し苦笑いする。

 5000人がまばらに座る東京ドームは確かに寂しいが「来てくださるお客様がいる限り、何とか楽しんでいただけないかと考えるのが私たちの仕事です」。人数は関係ない。それは、今年3月まで在籍していた文化事業部で学んだ。

 地方で開かれる美術展のサポートを担当。小規模な展覧会になると1日の来場者が数十人ということもあったが、来場者が心から楽しむ姿は印象的だった。

「作り手の情熱は、人数の大小に関係ない。そこにいるお客様に楽しんでほしいという思いは一緒ですから。数十人でも、5000人でも、4万人以上でも思いは変わらないんだと」

 今までのようにみんなで盛り上がる観戦ができないなか、新たな楽しみ方を同僚と考えた。

「ダメだとネガティブに考えるんじゃなくて、何だったらいいのかとポジティブに考える。タオル回しはダメでも、タオルを掲げるのならいいのかと。声が出せないなら、リズムのいい音楽を使って手拍子できるようにすれば楽しめるんじゃないかと」

 スタンド、音響、電光掲示板……。球場内が一体となって作り出すエンターテインメント空間を、選手たちの協力を得ながら今でも模索している。

いつか、歓声が戻ってくる日のために

「いつか、歓声が戻ればいいなという気持ち」だけは山田さんの中に変わらない思いとしてある 【写真は共同】

 直面するコロナ禍に足踏みすることなく、前のめりになって知恵を絞る。我慢の時期ではなく、新たなステージへの準備期間と捉える。その根底には、伝統ある球団に携わる者としての自負がある。山田さんの言葉に、一層熱が帯びた。

「ジャイアンツには『GIANTS PRIDE』というスローガンがあります。選手をはじめ、裏方スタッフや現場関係者も、誇りを胸に取り組んでいます。その誇りに恥じないように、いろいろな知識を吸収しながら、ひたむきにやることなのかなと思っています」

 5000人が上限の開催は少なくとも9月も続く。いつ事態が好転するか、正直誰も分からない。「ウィズコロナ時代」の価値観へと転換が迫られる一方、変わらぬ思いもある。

「私自身、興行に携わる身になってからまだ4万人以上の光景を見ることができていないんですよね。いつか、歓声が戻ればいいなという気持ちは持ってやっています」

 超満員が戻る日を思い描きながら、今は「安全」を作り出す日々と向き合う。異色のキャリアで得てきた経験や感覚を総動員して、心揺さぶる熱戦を守る。試合前の場内を見渡しながら、山田さんは照れ臭そうに言った。

「ただ変わり種の社員ってだけですよ」

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