古巣アーセナルの危機に帰ってきた元主将 監督としてつかみとったFA杯のタイトル

エルゴラッソ

宿敵を倒してつかんだFAカップ優勝

チーム窮地を救ったのはFWオーバメヤンだった 【Getty Images】

 リーグ戦では苦戦続きだった一方、アーセナルは得意としているFAカップで順調に勝ち進んでいた。準決勝では公式戦で7連敗中と苦手にしていた、アルテタの恩師グアルディオラ率いるマンチェスター・シティ相手に、超守備的な戦いで臨み、2-0の勝利を収めて決勝に進出を果たした。決勝の相手は宿敵チェルシーとのビッグロンドンダービー。アーセナルはすでにリーグ戦での欧州カップ戦出場権獲得の可能性が潰えてしまっていたため、勝てばEL出場権獲得、そしてアルテタの監督として初タイトルとなるこのFAカップ決勝がシーズン最終戦にして最大の大一番となった。

 迎えた決勝は、開始早々チェルシーのFWクリスティアン・プリシッチに先制ゴールを許してしまう厳しい立ち上がりとなった。この窮地を救ったのはチームのエース、ガボン代表FWピエール・エメリク・オーバメヤンだった。前半26分、抜け出したオーバメヤンがスペイン代表DFセサル・アスピリクエタにペナルティエリア内で倒されPKを獲得すると、そのPKを自ら冷静に決めて同点に追いつく。そして後半22分、またしてもオーバメヤンが今度はエリア内でフランス代表DFクルト・ズマをかわし左足で鮮やかなループシュートを決め逆転に成功する。その後はアルゼンチン人GKエミリアノ・マルティネスを中心にチェルシーの攻撃を封じ、2-1の逆転勝利で優勝を決めた。この優勝でアーセナルは自らの最多優勝回数を更新する14度目の優勝となり、13-14シーズンにチームのキャプテンとしてこのトロフィーを掲げたアルテタは今回は監督としてその時を迎えることとなった。

 選手たちもリーグ戦で苦しいシーズンを過ごした分、このFAカップ優勝は喜びもひとしおだったことだろう。特にドイツ代表の正GKベルント・レノの負傷により出場のチャンスを得たマルティネスが優勝後のインタビューで見せた涙は、彼のここまでの長い道のりを感じさせるもので胸にこみ上げるものがあった。

 また優勝後のロッカールームでは、選手と一緒に嬉しそうにはしゃぐアルテタの姿があった。監督に就任してからこの短い期間で選手との信頼関係を確固に築き上げたことがうかがえる何とも微笑ましい光景だった。もしエメリ前監督があのまま続投していたら、この光景は見ることはできなかっただろう。

 セレモニーではキャプテンのオーバメヤンがトロフィーを掲げる前に落としてしまうシーンがあった。この件についてアルテタ監督は「彼にはもっとトロフィーを扱ってもらう経験が必要だね。われわれがそれに慣れさせて行くよ」と粋なコメントを残している。来シーズンは無事にカップを掲げる姿が見られることを期待したい。

 その決勝で大活躍を見せたオーバメヤンも、監督交代によって大きな変化を見せた選手のうちの1人だ。エメリとの不仲やクラブ退団のうわさが報じられるなど難しい時間を過ごしていたチームのエースであったが、監督交代後はアルテタ監督から大きな信頼を得たことで以前はあまり見られなかった守備に奔走するシーンが増えるようになり、ゴール以外の部分でもチームに大きな貢献を果たした。何よりアルテタ政権下ではここまで守備的に戦うことも多く、決定機は多くないが、その少ないチャンスをことごとくネットを揺らすワールドクラスの得点感覚で違いを作り続けた。

 優勝後のインタビューではファンへの感謝の気持ちを述べたアルテタ監督。そのメッセージから、彼がどれほどこのアーセナルというクラブや選手、ファンに対する強い思いを持っているのかが伝わってきた。きっとアーセナルのファンは、誰よりもこのクラブをこよなく愛しているアルテタに、ヴェンゲルのように長い間クラブを指揮してほしいと願っているはずだ。

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著者プロフィール

サッカー新聞エル・ゴラッソ。通称エルゴラ。国内外の最新サッカーニュースを日本代表の番記者、J1・J2全40クラブの番記者、海外在住記者が、独自の現地取材をもとに、いち早くお届けします。

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