五輪中止も想定 コロナ禍でも試合機会を 宮崎強化本部長に聞く、卓球界の新強化策

平野貴也
 練習の環境は、問題ないという。宮崎強化本部長が危惧しているのは、試合環境の喪失だ。1年延期された東京五輪に向けて代表選手を強化するためだけでなく、今後も新型コロナウイルスが長く影響を及ぼす可能性まで考慮し、そして国際大会や東京五輪が開催されないという最悪のケースまで想定し、国内でのイベント開催を計画しているという。そこには、コロナ禍がどこまで続いても、日本卓球界は自分の足で立ち、歩を進めるという強い覚悟がうかがえた。

9月中旬、代表が戦う国内イベント立ち上げ

国際大会の開催見通しが立たない中、Tリーグが「2020 JAPAN オールスタードリームマッチ」の開催を発表。丹羽(写真)は早々に参加の意向を示した 【写真提供:日本卓球協会】

――ただ、試合がなければ目標を持って練習し、試合を経て改善するという進化のルートをたどることはできません。国際大会の再開も目途が立っていないようですが、今後の大会の予定は、どのような状況にあるのでしょうか?

 国際大会については、中国が中心となり、中国からの再開を目指しています。国際卓球連盟(ITTF)が2021年の創設を目指す新しい国際大会「ワールド・テーブル・テニス(WTT)」の評議会のチェアマンが、中国卓球協会会長の劉国梁(リュウ・グォリャン)さんに決まりました。ですから、「まず自国から開催しよう」と考えるのは、当然でしょう。彼とも先日、会談をしましたが、欧米各国で新型コロナウイルスの脅威がなかなか収まらない現状を考えると、今後、再開した後の国際大会の半数近くが中国開催となる可能性も十分あると思います。ただし、海外からの渡航者はすべて2週間の隔離を行うという条件では、各国から参加することができません。中国卓球協会は、中国政府に対して、2週間隔離の条件解除のための条件や管理法を問い合わせています。中国政府も1つの競技団体のみの対応ルールを作ることはできないでしょうから、中国が、国として海外から人を招く場合の条件、管理法を確立させてから、国際大会は再開に向けて動くことになると思います。

――大会がなく、強豪対策もやりにくいのでは?

 合宿に来た選手には、ライバルの試合映像も提供しています。もう二十数年にわたって各国の選手の映像とデータを蓄積し、すぐに分析ができるようになっていますので、心配していません。今までも日本代表選手の出場大会が決まると、エントリーしている全選手の映像データを各選手のタブレット端末に提供します。選手名を打ち込めば、その選手の過去の殆どの試合映像が見られます。「誰と誰の試合」と限定することもできますし、その選手の失点場面だけ、あるいはサーブ場面だけ、3球目だけ、レシーブ場面だけと状況を限定して見ることもできます。帰国したら、タブレット内のデータをすべて次の出場大会用の物に切り替えています。今後、国際大会が再開されると同時に、データの収集も再開され、引き続き強豪対策を立てることになります。

――国際大会がないイレギュラーな時期が続きますが、どのように強化を行う考えですか?

 先ほどお話したように、練習は個人で行うことができますが、実戦の感覚、経験は個人では作れません。試合がないという不安をどうにかするのが、私たちの仕事であり、責任だと思っています。まだダブルスが禁止という状況の中、すぐにはできませんが、国際大会の再開を待っているだけでもいけません。日本代表選手が戦える国内イベントを立ち上げ、9月中旬に第1回を開催し、2回、3回と続けることで、大会に似た形式に移行していく考えを持っています(注:9月中旬に無観客で「2020 JAPAN オールスタードリームマッチ」を開催することを14日に発表)。11月中旬になれば、Tリーグが開幕しますから、そこまでは、日本卓球協会で率先して大会を作ろうと思っています。そこから先は、Tリーグに加入していない日本代表選手の試合機会の確保が課題だと考えています。

――イベント開催にあたり、他競技の状況は参考にしますか?

 いろいろな場面で共有できる部分はあります。ただし、(コロナ禍でどのように対策を行い、強化をしていくかという点では)、他競技を参考にするというよりも自分たちで作り上げていこうと考えています。日本卓球は、世界で中国に次ぐ強国に成長しました。それは、独自の強化策が実ったものだと考えています。中国をまねしていたら中国には勝てません。他の国や、より規模の大きいメジャー競技を参考にするよりも、常に自分たちの目標に向けて、独自の方策を探していくことの方が大事だと思っています。

最悪のパターンを想定して準備

――1年延期された東京五輪ですが、今もなお開催自体が危ぶまれる状況にあります。1年の延期期間で競技にどのような影響が出ると考えていますか?

 今後は、3つのパターンのいずれかだと思います。(1)年内を目途に新型コロナウイルスの問題が収束し、無事に国際大会が再開されて、東京五輪も無事に行われる。(2)ウイルスのまん延が収まらず、国際大会の再開目処が立たずに東京五輪も開催できない。(3)ウイルスのまん延自体を何年間も受け入れるしかなく、その中で競技活動を続けていかなければならない。もちろん(1)が理想的ですし、(3)は、(2)の状況が続く中での折衷案ということになります。しかし、私たちは現実的に上記のいずれのパターンにも対応しなければなりませんし、考え方としては、最悪のパターンを想定する必要があります。ですから、世界的に競技がまったく再開されないパターンを想定して、準備段階に入っているところです。

――国内ではイベントを行い、選手が試合を目指せる状況を確保するということですね。

 そうです。イベントが始まり、Tリーグが始まる。2021年になって国際大会が再開していなくても、再びイベントを行うなどすれば、日本の選手は試合を経験することができます。コロナ禍でも少しずつ試合環境を整えていきたいです。そして、そこに中国の選手が参加できるようになったり、韓国や台湾の選手も参加できるようになったりすれば、(東アジア限定ですが)国際的な活動もできます。中国卓球協会の専務理事や事務局長には、私たちはこのような準備をしていく考えがあると伝えています。万が一、東京五輪が中止になってしまったとしても、卓球界は元気に活動をしている姿を見せられることを目指そうと考えています。もちろん、東京五輪が無事に開催されて、今、私が話した構想が不要になるのが一番良いです。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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