水谷隼が語る「五輪1年前」の心境は? ファンとのやり取りに時間を割いた意味

平野貴也

強くなる選手は、どんな状況でも道を探していく

久々に練習を再開した時は「やっぱり卓球はすごくハードな競技だな」と改めて実感したという 【写真提供:水谷隼】

 自粛要請期間中は、多くのアスリートがSNSを通じてファンとの交流を行った。水谷の話からは、競技を通じたパフォーマンスができない中で、いかに刺激を受けていたのかが分かる。それは、スポーツというエンターテインメントを失ったファンにとっても同じだろう。また、日頃から卓球の魅力を知ってもらおうと積極的に発信している水谷は、SNSの使い方についても前進を試みる意欲が強かった。トップアスリートとは、才能に恵まれた人たちという見方をされるものだが、実際には地道な前進をする力に富んだ者たちが継続した努力の末にたどり着く姿だ。自粛期間の活動制限におけるモチベーションの保ち方を聞くと、水谷からは明確な答えが返ってきた。

――スポーツという職業を考えるという意味では、スポーツ界の経済についても考える機会だったのでは?

 そうですね。やはり不景気のときは、スポーツの支援というのは切り捨てられてしまう可能性があります。僕は常にそういったリスクを想定して、普段から貯金をするタイプです。今まで、大きな買い物も車くらいしかしていません。それと、この期間は試合をしていないのにスポンサードしていただいている会社から給料をいただくことに、申し訳なさを感じてもいました。社員の方は一生懸命に働いているのに、自分は何もせずに家でゆっくりしているわけですから。だから、少しでも広告塔として役に立ちたいと思い、ライブ配信などはユニホームで行い、スポンサーの露出を図ろうと考えていました。

――5月下旬の緊急事態宣言の解除とともに、自粛ムードも明けて、各競技が活動を再開し始めていますが、練習ができるようになって感じることは?

 1カ月くらい前から練習を始めたのですが、卓球で生活できる喜びを改めて感じました。自分にとって、本当に天職だなと思います。久しぶりなので、ラケットを重く感じたり、身体が思うように動かなかったり、練習後に筋肉痛になったりと新鮮で、「やっぱり卓球はすごくハードな競技だな」とも感じました。

――学生の大会も続々と中止になり、目標を見失って苦しんでいる選手もいます。ただ、トップアスリートのSNSなどでの発信を見ていると、やはり苦境から這い上がれる選手というのは、どんな状況でも日々、コツコツと向上を目指せる人なのだなと感じます。

 緊急事態宣言が出たときに、僕も学生から相談を受けました。でも僕自身は、悩む間もなくプライベートでできる練習環境を探していました。まず、何とかして練習しようと模索するというのは、ほかの日本代表選手もみんな同じです。やっぱり、強くなる選手は、どんな状況でも道を探していくものなんだと改めて感じました。「もう(今までのような)練習はできない、どうしよう」と、苦しんであがいているだけでは、何も変わらないと思います。

――水谷選手は、これまでも著書などを通じて、練習は考えて行わなければいけないとメッセージを発信されていますが、今もまたアスリートは、何をすれば良いかを見つけにくい時期で、考える力が試されている時期だと思います。

「試合で勝ちたいから練習している」という人が、ほとんどだと思います。でも、今は、実際には試合がないので、モチベーションが上がらないという選手が多いのも事実です。理解はできますが、僕自身は卓球が大好きなので、モチベーションがなくなるということはあり得ないです(笑)。一種のマインドコントロールというか、モチベーションは自分で勝手に理由を付けて上げていけばいいと思います。自分で試すことや目指す物を決めて、勝手に頑張る。そうして、試合があろうがなかろうが、自分が日々強くなっていくことが楽しみで、毎日生活しています。「試合がないからモチベーションが保てない」というのは、ある意味で将来性がないのかなとも感じます。

<後編は7月18日掲載予定>

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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