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選手の感染リスクは? PCR検査は必要?
岩田教授に聞く「無観客試合」

PCR検査は"安心材料"にすぎない

接触を伴う競技スポーツ。選手間での感染リスクは「お互い様」であると語る岩田氏
接触を伴う競技スポーツ。選手間での感染リスクは「お互い様」であると語る岩田氏【写真:西村尚己/アフロスポーツ】

──先生の著書の中に「無観客での試合開催が最も妥当な選択肢」というご意見がありました。一番の理由は、観客の移動に伴うリスクを排除する、ということですよね?


 そうです。スタジアムの感染対策は、ある程度は管理できるはずなんです。観客の距離を保つとか、声を出して応援はしないとか、ハイタッチを禁止するとか。けれども、スタジアムに至るまでの経路を完全にコントロールするのは、現実的に難しいですよね。最寄り駅からの移動は、徒歩であれバスであれ、どうしても「密」の状態ができてしまいます。ですので、最初は無観客で開催して、慣れてきたら少しずつ観客を入れていく。間口を少しずつ広げながら、行きつ戻りつでやっていかないと難しいでしょうね。


──プロ野球は月に1回、Jリーグは2週間に1回のペースで、選手やスタッフのPCR検査を行うことが発表されています。これについての先生のご意見は?


 個人的には「必要ない」と思っています。先日、読売ジャイアンツで感染が確認された選手(坂本勇人、大城卓三)が、再検査で陰性となったことがありました。きちんとターゲットを絞って検査しないと、間違いが起こるリスクが高くなるんですよ。ですから、リスクがない人に対してPCR検査を行っても、あまりいいことがないというのが私の考えです。


──それでも、プロ野球とJリーグがPCR検査を行うのは、どういった理由が考えられますか?


 サッカーに関して言えば、ヨーロッパのリーグが行っているからだと思います。再開したブンデスリーガでもPCR検査は行われていますが、ドイツはまだまだ感染者が多いので検査する意味はあります。ところが日本は、ドイツに比べると感染者の数がはるかに少ない。専門的には「事前確率が低すぎると検査陽性が正しくない可能性が増す」という事実があるのです。だから、感染者が少ないところで検査をすると、間違いが起こりやすくなるので、医学的には微妙ですね。


 検査をやる、やらないの議論はあちこちで起きていますが、状況判断という観点を無視して検査をやる、やらないを論じるのはナンセンスです。晴れているときには傘は持たず、雨が降れば傘をさす。状況を無視して傘をさすのか、ささないのかを論ずるようなものです。状況判断を無視してボールを蹴るのか、ドリブルするのかを論じるのも無意味ですよね。それでも検査を行うのは「ドイツでは実施しているのに、なぜ日本でやらないんだ」という批判を未然に防ぎ、対外的にアピールする目的もあるのかもしれません。


──なるほど。仮に検査で陽性となった場合、感染した選手を悪者扱いにする傾向がちらほら見受けられます。この点についても、意識を変えていく必要がありそうですね


 その通りです。Jリーグとかプロ野球とか関係なく、感染者というのは病人であって、病気になったことを責め立てるというのは非常に良くない風潮だと思いますね。感染者の実名報道の是非はともかく、陽性反応が出た選手を守るのはクラブや球団、そしてリーグの責務だと思います。そして感染そのものは決して罪ではないことを、JリーグやNPBがきちんと声明を出すことが一番だと考えます。

競技にはコロナ以外の健康リスクも伴う

再開したプロ野球練習試合での様子。感染対策のマスクもこれからの季節には熱中症の恐れがある
再開したプロ野球練習試合での様子。感染対策のマスクもこれからの季節には熱中症の恐れがある【写真:ロイター/アフロ】

──次に、競技中における選手の感染リスクについて伺いたいと思います。濃厚接触の定義は「飛沫が届く1メートル以内の距離で15分以上、コミュニケーションをとること」とされています。野球とサッカーで比較した場合、野球の方がそのリスクは低いと思われるのですが、いかがでしょうか?


 野球の場合ですと、内野手とランナー、あるいはキャッチャーとバッター、といったケースですかね。ピッチャーや外野手は、そんなに影響を受けることはないと思います。ただし、キャッチャーやピッチングコーチが、マウンドに出向いてピッチャーとコミュニケーションすることがあるので、そこは気をつける必要があります。あるいは今後、アメフトのように無線でやりとりすることになるかもしれないですね。


──なるほど。サッカーの場合ですと、密着マークや1対1といったコンタクトの機会が、野球に比べて非常に多くなります。この点についてはいかがでしょう?


 選手間での(感染)リスクはあるかもしれませんね。ただし、これは「お互い様」だと思います。相手から感染するかもしれないし、自分が感染させてしまうかもしれないわけですから。そのリスクを飲み込まないと、競技として成立しませんよ。


──だからこそ、PCR検査に安心感が求められているようにも思えるのですが。


 いつも申し上げていることですが、間違った安心感を得ることは、痛み止めの麻酔を打つだけで病気をなかったことにして、治療しないことと同じです。何らリスクヘッジになっていない。ウイルス感染というのは、確かにリスクのひとつなんですけど、試合を再開するんだったら、そのリスクを飲み込むほかないんですよ。


 サッカーという競技自体、常にケガのリスクと背中合わせでやっているわけですよね。ヘディングによる脳しんとうとか、不整脈による心肺停止とか、命に関わるリスクだってあります。野球についてもそうですよ。先ほど高校野球の話をしましたが、夏の甲子園での熱中症のリスクを放置しておいて「コロナのリスクがあるから中止」とか、よく言えるなと。私に言わせれば、コロナも熱中症も、どちらも同じ健康リスクですよ。


──その点については、おっしゃるとおりだと思います。


 そもそもプロスポーツというものは、ものすごく身体に負荷がかかるものなんです。野球やサッカーだけでなく、相撲しかり、レスリングしかり、マラソンしかり。必ず身体的な健康リスクがついて回るんですよ。もちろん、そのリスクを乗り越えて得られるものがたくさんあるし、だからこそ観客も魅了されるわけです。いずれにせよ、コロナだけを突出したリスクにとらえて、他のリスクをなかったことにするのは、間違った考え方だと思います。

宇都宮徹壱
宇都宮徹壱

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著はスポーツナビでの連載をまとめた『J2&J3 フットボール漫遊記』(東邦出版)

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