- 後藤勝
- 2020年5月22日(金) 11:00
これからもクリント・イーストウッドの「自由な」映画が観たい

親子の物語に話を戻すと、親の老いが重要なテーマになってきます。
ハリソン・フォードに似ているウチのお父さんも、年々老いていくので、その変化が気にかかります。
ミッキーは心配になってガスのもとに押しかけますけれども、たぶん私と同じような気持ちになったのではないかと想像します。そこが、この作品が内包しているテーマの1つである、“捨てる勇気”を持つことだと思うんですよね。仕事の世界で成功しかけているにもかかわらず、親が心配で駆けつけてしまう。

私がミッキーのように隙のない女だったときは、家族よりも仕事が大切でした。メールが同時に来たら、父よりも会社に先に返していましたから。この仕事を失ったら怖いという思いがあったからなんですけど、少し余裕ができた今は、休むようになりましたね。以前は休む勇気がなかった。誰かに仕事をとられるんじゃないか、忘れられるのではないか――いろいろな不安があったんですよね。
でも今は、一週間休んで忘れられるようであれば、私はそれまでの存在だったのだと思うようにしています。
クリント・イーストウッドには、いつまでも元気に映画を撮っていてほしいですね。ここ3年くらい会えていない。レギュラーの仕事が忙しくて米国に取材に行けず、それがちょっとさみしいんですけどね。
ウディ・アレンもですけど、クリント・イーストウッドは今のほうが好きなんですよ。息子のスコット・イーストウッドをちょい役で使ってみたり、『15時17分、パリ行き』で素人さんを使ってみたり、余裕があるから、自分が本当に描きたいものを描いている気がします。製作会社や製作委員会に気を遣わず、むしろ周りが彼に撮りたいものを撮ってもらうような動きになってきているのではないかと。テイストはそれぞれに違って幅広い作風ですけれども、どの作品も人間ドラマがしっかりしているという点は共通していて。
何かが吹っ切れたとき、人は輝きますよね。『ハリー・ポッター』が終わったとたんに髪を切ったハーマイオニー役のエマ・ワトソン、彼女の気持ちは分かりますよ。ずっと切りたかったんでしょうね。今は幅広い役を演じられるいい女優だということが分かります。
クリント・イーストウッドにも、そういう吹っ切れた感じが漂っているように思います。人に言われたことでなく、自分がやりたいことに突き進んでいる。
おそらく、彼は本物を見たいからこういうものを描くんですよ。世の中とはこういうものだと、それを映画で描ける余裕があるというのも素晴らしい。そしてそれができるのは、クリント・イーストウッドが、今まで真面目にやっていたからだと思います。
(企画構成:株式会社スリーライト)
LiLiCo(映画コメンテーター/タレント)

1970年11月16日生まれ。スウェーデンストックホルム市出身。18歳で来日し、1989年に芸能界デビュー。2001年からTBS系『王様のブランチ』に映画コメンテーターとしてレギュラー出演中。その他、フジテレビ系「ノンストップ!」、J-WAVE「ALL GOOD FRIDAY」ほか出演番組も多数、イベント、声優・ナレーション、女優などマルチに活躍。2015年8月にはプロレスデビューを果たし、DDTプロレスリングでのタイトル歴はアイアンマンヘビーメタル級、DDT EXTREAM級。