安藤美姫が娘に伝えたいこと「毎日健康で笑っていてくれれば…」

いとうやまね

娘と一緒にソーシャルディスタンスの必要性をアピールする安藤美姫さん 【写真:本人提供】

 オリンピアンであり、元フィギュアスケートの世界女王、安藤美姫。プロスケーターでタレントとしての顔も持ち、振付け師・指導者としてもキャリアをスタートさせている。そして、7歳のひとり娘の母親でもある。インタビュー後編は、新型コロナまん延の影響で中止になってしまったアイスショー、関わっているチャリティーと「アメイジング・グレイス」の歌に込めた気持ち、娘への愛情について語ってもらった(インタビュー取材は5月1日にオンラインで実施)。

状況が落ち着いたらアイスショーを

アイスショーは中止となったが、状況が改善し開催ができるその日に備えている(写真は2019年のフレンズオンアイス) 【写真:松尾/アフロスポーツ】

――新型コロナの影響で、関わってらっしゃるアイスショーも延期になりました。すでに練習を始められていたと思いますが。

 私自身は自分が滑るナンバーだけなのでよいのですが、ショーで群舞を担当しているキャストの皆さんは、かなり練習を積んでいたと思います。自粛要請が出始めた頃にリハーサルの予定が終わり、ギリギリまで引っ張ってくださったのですが、緊急事態宣言が出て、すぐに延期という連絡が回ってきました。

――ファンの皆さんはもちろんのこと、出演者や関係スタッフのショックは計り知れません。こればかりは仕方のないことですが。

 残念な気持ちもありましたが、誰もがこの未知のウイルスの感染を心配していて、リハーサルを見合わせたいと考える人も少なくなかった印象です。健康が第一ですし、それは人としてもアスリートとしても基本的な考えだと思います。

 それでも、ギリギリまでリハーサルをして、この状況が落ち着いた時に改めてアイスショーを行う。それに向けて完成させ、作り上げて、解散という形になりました。衣装の方ともリンクで何度かお会いしていたので、ミーティングも重ねて、実物も作り始めていたと思います。

――さまざまな人の手で1つのアイスショーを作り上げています。本当に残念ですが、必ずやれる時が来ると思うので、その日まで楽しみにしています。

医療従事者への感謝を伝えるために

チャリティー動画リレー「BLADES FOR THE BRAVE」で、「アメイジング・グレイス」の演技と歌声を披露した 【いとうやまね】

――安藤さんも参加されていたチャリティー動画リレー「BLADES FOR THE BRAVE」について、お話し願えますか?

 このチャリティーの発起人は、私が以前練習していたアメリカのニュージャージー州北東部・ハッケンサックという町にあるスケートリンクの関係者なんです。アメリカのフィギュアスケーター、グレイシー・ゴールドとジェイソン・ブラウンがメインMCを務め、五輪と世界選手権に出場した各国のスケーターたちが、医療従事者への支援のために参加するとのことでした。

 アメリカでもコロナの影響でアイスリンクはどこもクローズしていますが、チャリティーでの演技ということならば、特別に開けてくれる場合もあるそうです。私が誘われた当初、日本のリンクはまだ開いていると思われていて、「美姫も滑ってほしい」とリクエストされたんです。そこで、すでに使えない旨を伝えたところ、家でやれることがあればメッセージだけでも構わないと言ってくださいました。

――「アメイジング・グレイス」を滑るご自身の動画に合わせて、歌声をアカペラで披露されています。

 やはりスケーターなので滑る姿を見てほしかったのと、アメイジング・グレイスは自分にとって思い入れがあるプログラムなので選びました。この時期世界に発信するのに、メッセージを伝えやすいと考えたんです。家でスマートフォンで撮った歌の動画と、前に撮影していた演技動画をアメリカで1つに重ねて作っていただきました。

「アメイジング・グレイス」は様々な場所で滑らせていただいてます。2013年のネーベルホルンが最初ですが、震災時にも、スケーター仲間のデニス・テン君が亡くなった時も、滑りました。私にとって特別な曲なんです。

――神の慈しみへの感謝の歌です。安藤さんの気持ちが届いていると思います。お嬢さんも家のピアノの前でお歌を披露していますね。ヘンデルのオペラ『リナルド』に出てくるアリアでした。イタリア語で歌っていたのでとても驚きました。

 この曲はピアノの先生が教えてくれたそうです。歌詞の意味は分かっていないと思います。私は“子供の力”は大きいと思っていて、以前撮影してあったものなのですが、自分の動画と一緒に送らせていただいたんです。

――グレイシー・ゴールド選手のお母様のメッセージ動画もありましたね。新型コロナ医療の最前線でER(救急救命室)の看護師として働かれているということですが。

 最前線で医療に携われている方の率直なご意見だと思いました。まだ分からない部分も多いウイルスへの怖さや、「自分は大丈夫なのでは」と思ってしまう人たちへの警鐘が、一番伝えたい事なのだと感じました。スケートを通じてですが、世界の仲間からのメッセージは自分も1つの意見として受け取りました。

――安藤さんから医療従事者のみなさんへのメッセージをお願いできますか?

 この様な状況の中、やはり最前線で医療に携わる方々への感謝と敬意を改めて感じています。私自身も感謝の気持ちを伝えるためにできる事を探して、それをきちんと行動していきたいと思っています。

 手洗いうがいをして、きちんと健康に過ごす毎日の事に始まり、私はスケートを通じてつながっている世界へ発信させていただけるチャンスが多いので、おうちでできるMIKI'sプロジェクトだったり……メッセージは行動でお伝えしたいと思っています。

厳しい状況でも愛情をたっぷり注げるように

――ちょっと抽象的な質問なのですが、安藤さんにとって、お子さんという存在は? お嬢さんへの思いを話していただけますか。

 毎日健康で笑っていてくれれば、それで十分です。普通の家庭と違って、母親との時間が少ないというところでは、寂しい思いもたくさんさせているので、それ以外の時間は、たとえ疲れていてもできる限り娘のための時間にしようと考えます。今こういった状況で、逆にずっと家にいてあげられるので、学校が再開した時に少しでも余裕を持って学べるように、先へ先へと教科書の勉強を一緒に進めています。

 勉強ばかりだとどうしても飽きてしまうので、そんな時はお菓子作りなんかもします。そういう、何というか小さな幸せが決して普通じゃないんだという。何が起こるか分からないのが人生だと思うし、娘にだって何が起こるか分からない。だからこそ、厳しい状況でも愛情をたっぷり注げるように、笑っていてくれるように、もうそれだけですね。

 幸いにも私たち家族は元気に過ごさせていただいています。また緊急事態(宣言)が1カ月延びるようなので、気を抜かずに生活しようと思います。こういう状況だからこそ見えることもあると思うので、娘と一緒にどう過ごすか、どういうふうに健康を保つのか。それを意識しながら過ごしたいと思います。

 娘は小さいので全てを理解できていませんが、ある程度理解できる年齢のお子さんたちは、できる限りプラスの面を探して「良い経験をしている」と考えた方がいいと思います。今後またこういう事態がくるかもしれないし、今のままの状態が長く続く可能性もあります。そういう時に、今の経験は必ず役に立つと思います。どこにも出かけられないと嘆くよりも、出かけられないからこそ、じゃあ自分はこの時間をどう有効に使うかなんです。

<了>

※リンク先は外部サイトの場合があります

安藤美姫(あんどう・みき)

1987年12月18日生まれ、愛知県出身。2002年ジュニアグランプリファイナルで女子選手初の4回転サルコウを成功。03年、04年には全日本選手権で連覇を果たす。2度(07年、11年)の世界選手権優勝に加え、五輪には06年トリノ大会、10年バンクーバー大会と2度出場した。現在はプロスケーターとして活動しながら、指導者や振付け師としても活躍の幅を広げている。
  • 前へ
  • 1
  • 次へ

1/1ページ

著者プロフィール

サッカーおよびフィギュアスケートのコラムニスト、サッカー専門TV、欧州実況中継、五輪番組のリサーチャー。コメンテーターとしてTVにも出演。Interbrand、Landor Associates他で、シニアデザイナーとしてCI、VI開発、マーケティングに携わる。後に、コピーライターに転向。著書は『氷上秘話〜フィギュアスケート楽曲プログラムの知られざる世界』『フットボールde国歌大合唱』他、構成『サッカー日本代表帯同ドクター』(土肥美智子)他。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント