東京Dを満員にしたダルvs.田中の直接対決 岩本勉氏が振り返る両エースのすごみ

ベースボール・タイムズ

2人が競い合って作り出した名試合

岩本氏はダルビッシュと田中の共通点として「絶対にマウンドを譲らない」点を挙げた 【写真提供:GAORA】

――対する田中投手も点を取られた4回以外は無失点に抑えて、8回を5安打2四球3失点(自責2)という内容でした。

 ずばりマー君からすれば、ダルビッシュに対して「力及ばず」という試合でした。でもこの試合のマウンドで学んだこと、感じたことは非常に大きかったと思います。実際、この対戦を経た後の後半戦からのマー君のピッチングはすごかった。それが2013年の24勝0敗にもつながった。エース対決で投げ勝つというのはどういうことなのか。それを2歳上のダルビッシュと投げ合って、学んだと思います。

――ダルビッシュ投手はこの試合に勝利して前半戦だけで13勝(2敗)をマークしましたが、後半戦に入って田中投手が勢いに乗って10勝(2敗)を挙げ、最終的にリーグ最多の19勝(5敗)をマークすることになりました。最多勝を争い、沢村賞も争った2人ですが、この両投手に共通するものはありますか?

 よく似ている。まず、絶対にマウンドを譲らない。メジャーに行ってからは「野球」と「ベースボール」の違いがありますけど、日本の野球の中では「絶対に俺が最後まで投げてやる!」という気持ちが誰よりも強い投手です。2人とも完投数がものすごく多かった(2011年はダルビッシュ10完投6完封、田中14完投6完封)。頑固にマウンドを譲らないのではなく、ベンチが継投しようと思わないピッチャーでしたね。まさにエースだったと思います。

――この試合も2人とも完投しました。まさにエース対決にふさわしい投手戦。しかも試合時間が2時間23分という短さでした。

 現役選手も含めて誰もが注目した試合で2時間23分。まさに投手戦ですね。ピッチャーの理想は27人連続アウトにすることですけど、この2人はその理想に近い内容をファンに提供できるピッチャー。この試合では両投手ともに点は取られましたけど、テンポのいいピッチングは見事でした。お互いがお互いを意識していたでしょうし、「絶対に負けるもんか」という気持ちがあったはず。2人が競い合い、作り出した名試合でしたね。

――現在は両投手ともメジャーリーグで活躍しています。その2人の日本での最後の直接対決は、今見ても楽しめると思います。

 そうですね。今から9年前ですから、振り返る年月としてもちょうどいい。僕も細かいことは忘れてしまっていますから、その分、ライブ感覚で観ることができると思います。

今こそ、ともに戦う時

――現在の話をすると、今年は新型コロナウイルスの影響で開幕が延期し、緊急事態宣言も延長された中で、今後どうなるか分からない状況が続いています。

 プロ野球だけのことじゃなくて、国難と言える状況が続いている。その中で僕も含めて野球人というのは表現者です。その表現者が、しっかりと自粛を表現しないといけない。選手たちが辛抱する姿をファンたちに見せて、いざ開幕した時には自粛の影響を感じさせないパフォーマンスを見せてもらいたい。調整は難しいですが、その中でもしっかりとしたプレーを見せること、表現することが使命だと思います。逆に言えば、選手たちはそのプレッシャーも感じながら過ごしていると思います。それは僕たち解説者も同じです。最初に何を言おうか……。「待ちに待った開幕です」なんて言葉だけでは全然足りないでしょうから、自分がどんな言葉を言えるかどうかは、今もずっと考えています。野球にできる幸せをどう感じられるかを考えた時、今でも涙が出そうになりますから……。

――プロ野球ファンもフラストレーションが溜まっています。ファンに対してメッセージをお願いします。

 今こそが、ともに戦っている時だと思います。これまで、普段のシーズンも「ともに戦おう」というフレーズは使われていましたけど、今こそ共に戦っている。力を合わせて、まずはこのコロナとの戦いに勝ち、その上でシーズンが始まったらまた、一緒になって一喜一憂しましょう。そのために今は、それぞれが我慢して、自粛して、過ごしましょう。

――ダルビッシュ対田中の最強エース対決から9年、同じく東日本大震災から9年が経ちました。今後の野球界に期待すること、しなければならないことは何でしょうか?

 これは東京五輪にもつながることですが、これから野球だけじゃなくて、スポーツの持つ意義が問われることになると思います。スポーツというものは、言葉の壁を取っ払い、国境を越えることができる。言葉は通じなくても、五感を使い、同じルールの中で一緒に楽しむことができる。その意味で人間力のぶつかり合いだとも言える。そしてコロナが収まった後、スポーツの力がどれだけ人間力の向上に役立っているのかを証明するチャンスがやってくると思う。証明しなくちゃいけない。僕も含めて、それを伝えなくちゃいけない。その使命感は僕も持っています。

――すべてが収まった時に、今みんなが溜め込んでいるパワーが一気に爆発して、野球を含め、スポーツ界全体が盛り上がってもらいたい。

 そうですね。競技も関係なく、一致団結する時だと思いますし、5年、10年経った後に今年を振り返って、「あの時はよく頑張ったよな!」と、お互いを称え合うことができるようになりたい。2011年も震災が起きて大変だった。その大変さは今も続いていますが、その中で野球の底力を見せることができたと思う。そして今年こそ、さらにその野球の底力を見せる時です。まずはダルビッシュ対田中の対決を見直して、その力を蓄えてもらいたいですね。

(取材・文:三和直樹/ベースボール・タイムズ)

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スポーツ専門チャンネルGAORAでは現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって“野球ロス”を感じているファイターズファンに向けて、過去の感動と興奮の名試合を特別放送中。5月9日14時30分からは、「ダルビッシュ有×田中将大」の平成の最強エース対決が実現した2011年7月20日の「北海道日本ハムvs.東北楽天」を放送する。

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著者プロフィール

プロ野球の”いま”を伝える野球専門誌。年4回『季刊ベースボール・タイムズ』を発行し、現在は『vol.41 2019冬号』が絶賛発売中。毎年2月に増刊号として発行される選手名鑑『プロ野球プレイヤーズファイル』も好評。今年もさらにスケールアップした内容で発行を予定している。

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