連載:Jリーグ・クラシック

「02年なのに今風のサッカーをしている」 名波浩が語る“ジュビロ黄金時代”

飯尾篤史

01年のチームはすべてがMAX。翌年は円熟味が増した

02年のチームについて「円熟味が増した」と名波。01年には「N-BOX」も大きなインパクトを残した 【スポーツナビ】

――W杯終了後の7月にJリーグは再開し、磐田の強さに拍車が掛かります。1stステージでよく覚えているのが、第12節のガンバ大阪戦です。5-4という壮絶な打ち合いでした。名波さんは覚えていますか?

 もちろん。マグロンというデカいFWに2点決められて、(吉原)宏太とヤット(遠藤保仁)にもやられたのかな。こっちは、高原(直泰)とフク(福西)のゴールで追いつき、追いつき。2点差にされたあとは、高原のPK、服部(年宏)のヘディング、西(紀寛)のVゴールでしょ。鮮明に覚えている。その前の試合だったかな、ジェフ(市原)とアウェーで2-2と引き分けているんだけど、その前日の夜、ホテルで監督室に呼ばれて、「お前は明日、スタメンじゃない」と。

「理由は?」と聞いたら、「全員がフルにやって、最後まで持つか分からない。ましてやお前は膝があれだから」って。俺はこのジェフ戦が大事だと思っていて、ここで勝てれば勢いに乗れると思っていたんだけど、それは言わず、「そうですか」と言って監督室を出たの。そうしたら2-2で勝てなくて、ガンバ戦でスタメンに復帰するんだけど、のちのち考えると、マサくんの方が先を見据えていたのかなって感じがする。1st、2ndの両方を獲るという目標から逆算して、俺の膝の具合を考えながらね。

―――鈴木監督はどんな監督だったんですか? 00年の終盤に就任して、01年にはN-BOXを導入し、02年にはチームを完全優勝に導くわけですが。

 選手と一緒にチームを作れる監督でしたね。当時のジュビロは、もっと強くなるために、もっとうまくなるために、選手たちで「もっとこうした方がいいんじゃない?」って意見を出し合うチームだったけど、マサくんは「NO」とは言わず、耳を傾けて、受け入れてくれた。たしか00年の残り5試合から指揮を執ったと思うけど、65試合で7敗しかしてないんだよ。それはすごいこと。

――G大阪との激闘を制した磐田は第14節でベガルタ仙台を下して横はFMに代わって首位に立ち、柏レイソルとの翌節にも勝って1stステージ優勝を決めます。2ndに入っても勝ち続けていくわけですが、01年のチームと02年のチームは、どう違うと感じていますか?

 なんて言うのかな、01年はすべてがMAXという感じ。豊潤さとか、高貴さを漂わせながら、勝負強さや泥臭さも持ち合わせていたんだけど、02年になると、より円熟味が増した感じ。30歳前後の経験豊富な選手たちの“脂っこさ”で、ひっくり返したゲームがけっこうあるからね。ゴンちゃんはもちろん、俊哉とか服部とかの味のあるプレーで勝ったゲームが多い印象。だから、Vゴール勝ちが多かったんじゃないかな。

――01年はN-BOXに代表されるように、結果だけでなく内容とか形とか美学にも、すごくこだわっていたような感じを受けます。

 かつての同僚たちも、01年は「面白かった」とよく言っているんだけど、N-BOXにトライしていた、俺がケガする第8節までの成長曲線がすごかったからね。第4節の鹿島戦以降、ダーッと行ったから。30試合中の8試合ということは、わずか4分の1くらいなんだけど、インパクトは強かったよね。

――02年は、移籍した奥さんに代わって西紀寛選手が台頭してきて、新しいバランスを手に入れた印象もあります。

 そうだね。01年のN-BOXはウイングバックがいなかったんだけど、西は上下動ができる選手だったから、右ウイングバックに入って、俺がトップ下、俊哉が左ウイングバック。でも、俊哉はサイドが嫌だから、どんどん中に入ってくる。そうしたら、俺がスペースを空けるために下がる。(左ボランチの)服部は俺が邪魔だから外に出る。こうして左のローテーションが生まれた。これって、練習で生まれたものじゃない。試合でバランスを取るなかで自然と生まれたものだから。

――先ほど「02年は円熟味が増した」とおっしゃっていましたが、成熟した選手たちのアドリブが利いていたわけですね。

 この前、ある番組で一緒になった岡田(武史)さんが「あの頃のジュビロが理想だ」と言っていて。強さはもちろんだけど、選手が自分でちゃんと考えられる集団だったと。岡田さんが言うには「今でも俺はチームを勝たせることはできる。でも、何かが起きたとき、どうするの? ってベンチに頼るのではなく、選手自身にジャッジさせられるようにするのは難しい」と。「あの頃のジュビロはそれができていた」と言ってくれて、うれしかったですね。

「プレッシャーのかけ方やボールの動かし方を見て」

ボールを動かすサッカーの「源流」となった当時の磐田。名波は「プレッシャーの掛け方やボールの動かし方を見て」と話した 【(C)J.LEAGUE】

――さて、いよいよ完全優勝に向けて王手をかけて、今回のRe-LIVEで放送する東京ヴェルディ戦を迎えます。この試合で名波さんはエジムンドを見ながら、ピッチを駆け回りました。

 エジムンドはいい選手だったよね。悪童なんて言われていたけど、本当にうまいなって思いましたね。ボールコントロールにおける懐の深さ。そんなにデカくないのに奪えそうな気がしない。FKもそうだったけど、芯を食うシュートが多かったし、意図のあるプレーばかりで、周りの日本人をどんどん生かしていた。エジムンドは本物でしたね。

――02年の磐田は今なお「歴代最強チーム」と評価されています。今回の磐田vs.東京VのRe-LIVEでは、どんなところを見てほしいですか?

 今だったら、川崎(フロンターレ)とか、風間(八宏)さんのときの名古屋(グランパス)とか、ボールをしっかり動かすチームが何チームかあるけれど、その源流は、Jリーグ初期のジュビロだと思っていて。その完成型と言ったら大げさかもしれないけれど、そういう感じで見ていただきたいですね。02年って、今から18年前でしょう。でも、今風なサッカーをしていると思うんですよ。連続したプレッシャーのかけ方とか、ボールの動かし方とか。そういうところも見てもらいたいですね。

DAZN Re-LIVE J.League Classic Match
2002 2ndステージ第14節 ジュビロ磐田vs.東京ヴェルディ 配信中

<今後の配信予定>
4月18日(土)〜 2003 J1 第34節 横浜F・マリノスvs.ジュビロ磐田
4月25日(土)〜 2006 J1 第34節 浦和レッズvs.ガンバ大阪
5月2日(土)〜 2007 J1 第34節 鹿島アントラーズvs.清水エスパルス

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著者プロフィール

東京都生まれ。明治大学を卒業後、編集プロダクションを経て、日本スポーツ企画出版社に入社し、「週刊サッカーダイジェスト」編集部に配属。2012年からフリーランスに転身し、国内外のサッカーシーンを取材する。著書に『黄金の1年 一流Jリーガー19人が明かす分岐点』(ソル・メディア)、『残心 Jリーガー中村憲剛の挑戦と挫折の1700日』(講談社)、構成として岡崎慎司『未到 奇跡の一年』(KKベストセラーズ)などがある。

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