連載:欧州 旅するフットボール

「そこにしかない景色」 マンUとソシエダのファンが共に歌う時

豊福晋
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2013年、CLグループステージ第4節のレアル・ソシエダ戦でプレーするマンチェスターUの香川 【Getty Images】

サン・セバスティアン

 その日のサン・セバスティアンでは飛ぶように酒が売れた。「通常の比じゃないな」と、旧市街のバルの店主は言った。

 チャンピオンズリーグ、レアル・ソシエダ対マンチェスター・ユナイテッドの試合を観るために、イングランド人が海を越えてやってきた。

 彼らは街のバルを埋め尽くし、ビール、シドラ、チャコリ(バスクの発泡白ワイン)を流し込んでは歌った。
 その姿は大昔に北方から船でたどり着きヨーロッパ各地を制圧していったバイキングとさほど変わりないはずだ。

「今夜はうるさくなるね」。タクシー運転手はやれやれとした表情で言った。「暴れないといいんだけど」。バルの店員はどこか不安そうだった。豪快な英国人の姿を、穏やかな美食の街の人々(スペインの最上流階級だ)は少し距離を置いて眺めていた。

 サン・セバスティアンに来たのは、マンUでプレーしていた香川真司を見るためだった。

 その夜の香川は決定機を作り続け、地元紙から「悪魔が宿る左足」と絶賛された。そのプレーはバスクの人々に強烈なインパクトを与えた。香川が本当の意味でスペインで評価された日だったかもしれない。

 同じ日本人として誇らしい気分になり、試合後の旧市街を歩く。
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著者プロフィール

ライター、翻訳家。1979年福岡県生まれ。2001年のミラノ留学を経てライターとしてのキャリアをスタート。イタリア、スコットランド、スペインと移り住み現在はバルセロナ在住。5カ国語を駆使しサッカーとその周辺を取材し、『スポーツグラフィック・ナンバー』(文藝春秋)など多数の媒体に執筆、翻訳。近著『欧州 旅するフットボール』(双葉社)がサッカー本大賞2020を受賞。

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