連載:アスリートに聞いた“オリパラ観戦力”の高め方

富澤慎が疾駆する江の島沖のメダルレース 大海原に帆を立てるセーリングの壮大感

C-NAPS編集部

背が高いと有利なセーリングではオランダ勢が躍動

高身長、ローファット、適正体重が重要なセーリングにおいて、富澤は理想的とも言えるスラリと引き締まった見事な肉体を誇る 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 五輪において最大のライバルとなるのは、オランダ勢です。特に2018〜20年の世界選手権を3大会連続で1、2位独占を果たしたキラン・バドロー選手とドリアン・ファン・レイセルベルヘ選手は驚異的ですね。でもオランダの選手は、レースが終わったらすぐにビールを飲みに行くなど、遊んでいる雰囲気を醸し出して全然真面目な感じではないんです(笑)。でもそうした態度はフェイクなんでしょうね。しっかりと練習しないと勝てない競技ですし、そうした一面をのぞかせつつもしっかりと結果を出しているところは、各国からリスペクトされています。

 また、オランダ勢が強い理由の一つとして、背の高さが挙げられますね。セーリングでは「高身長」「ローファット(低脂肪)」「適正体重」の3つの要素が重要だと言われています。RS:X級の場合は70〜75キロが適正体重だと言われていて、その体重で背が高く脂肪が少ないほど有利になります。身長が高くスラっとしているとより高い位置で帆を支えられるので、軽い力でブームを引っ張ることができます。体脂肪に関しては、僕は6〜7%を目指していますね。

 オランダの他に注目なのはフランスやポーランドです。フランスには歴史があり昔から強く、技術や練習がしっかりと引き継がれている印象を受けます。上背がある印象はありませんが、練習やトレーニングを真面目に取り組む選手が多いですね。ポーランドも同様です。強豪国のトップ選手たちはバランス感覚に優れている器用な人が多く、みんなマリンスポーツ全般が上手なんですよ。しなやかな動きや波の捉え方を体感できることは自分の競技に生きますし、僕もサーフィンをやっています。休日にリラックスするためには最適ですね。

目指すのは「家族が応援しに来てくれる五輪」でのメダル獲得

家族の話になると表情が緩む富澤。慣れ親しんだホーム・江の島の海でメダル獲得の勇姿を家族に見せたいところだ 【写真:C-NAPS編集部】

 過去3大会の五輪では、多くのことを経験しました。初めて出場した08年の北京五輪は、勢いだけで臨んだ大会。右も左も分からず怖いもの知らずのままメダルレースに食い込むことができ、10位になれました。12年のロンドン五輪は強風が吹く苦手なコースで、全てが上手くいきませんでした。16年のリオデジャネイロ五輪はすごく悔しい大会。「北京くらいの結果が出せる」という感覚があり、実際に初日は5位で終えました。でも最後の競り合いの中で順位を落とし、最終的には15位。だからこそ東京五輪では絶対に結果を残したいです。

 リオ五輪前にすでにその次の開催地が東京に決まっていたので、東京五輪まで現役を続ける以外の選択肢はありませんでした。中途半端なことはできないと思い、リオ五輪の銀メダリストのニック・デンプシー(イギリス)をコーチに迎えてこの4年間練習に取り組んできました。ニックはリオ五輪後の引退を決めていたこともあり、「コーチになってくれないか」とお願いしてみたら、快く引き受けてくれました。

 教科書のようなお手本になる選手だったニックがコーチに就いてくれたことで、僕の中では入賞(8位以内)入りは確実に果たせるレベルに上がっているという手応えがあります。ニックからは「5番以下だったら首を絞める」と言われているくらいです(笑)。ただ、五輪の結果は最後の調整が大きな影響を与えるので、失敗がないようにしっかりと計画を立てていきます。

 東京五輪については、自分の中ですごく良いイメージが湧いています。「スタートしたら、こういう風の時はこっちに走って、良いルートはこっちで」など。会場の江の島ヨットハーバーは、僕にとって新潟を出てから18年慣れ親しんだホームであり、一番好きな海です。また、今回は家族が応援しに来てくれる大会でもあります。僕には2人の子どもがいるんですが、もう五輪を理解しているようで折り紙でメダルを作って渡してくれるんですよ。そんな子どもたちの思いに応えるためにも、最低でも入賞を果たしたいです。そして、その先の大きな夢であるメダル獲得を何とかして実現したいと思っています。

(取材・執筆:上田まりえ)

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著者プロフィール

ビジネスとユーザーを有意的な形で結びつける、“コンテキスト思考”のコンテンツマーケティングを提供するプロフェッショナル集団。“コンテンツ傾倒”によって情報が氾濫し、差別化不全が顕在化している昨今において、コンテンツの背景にあるストーリーやメッセージ、コンセプトを重視。前後関係や文脈を意味するコンテキストを意識したコンテンツの提供に本質的な価値を見いだしている。

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