フクヒロ、英国の地でつかんだ手ごたえ “シルバーコレクター”脱却し五輪金へ

平野貴也

得点パターンが改善

攻撃から守備、守備から攻撃へ移行するローテーションが早いのが特徴の福島/廣田組。しかし、昨今は守備に軸が置かれ、攻撃への移行が遅れるケースが目立った 【写真:ロイター/アフロ】

 強い勝ち上がりが印象的だった。2回戦こそ、第1ゲームを落として逆転勝ちとなったが、準々決勝で世界ランク5位の韓国ペア、準決勝で16年リオ五輪・金メダリストである高橋礼華/松友美佐紀(日本ユニシス)、決勝では世界ランク6位の中国ペアをいずれもストレートで撃破した。

 この大会の収穫は、廣田の得点パターンが戻って来たことだ。2人の特徴は、スピード感のあるローテーション。ダブルスは、攻撃時には「トップ&バック」と呼ばれる縦並び、守備時には「サイドバイサイド」と呼ばれる横並びの陣形を取る。チャンス球を逃さずに横から縦へ、ピンチを察知して縦から横へと陣形を変えるのがローテーションだ。ただし、攻撃の際には得意な形が決まっているのが通例で、高い位置から強打を打つのが得意な大柄な選手が後衛、小柄でスピードと技術のある選手が前衛に入るのが一般的だ。そのため、相手は後衛タイプの選手を前に引き出し、前衛タイプの選手を後ろに追いやる。

 しかし、福島と廣田は、両者が前後を苦にせずこなせるため、攻撃に移行するローテーションが早い。これがもともとの2人の良さだったのだが、近年は守備力の安定感が目立ち、攻撃の移行が遅れていた。今大会の躍進は、その改善が鍵だった。

戦術パターンが増え、連続失点を喫するパターンが全英オープンでは少なかった 【写真:ロイター/アフロ】

 2人は、世界で活躍するうちにプレースタイルが少しずつ変化してきた。国際大会を戦う中で、自分たちの新たな持ち味を発見したからだ。国内の選手よりもパワーがある外国人選手と戦うようになり、守備陣形で粘り強くレシーブを返していると、やがて相手が根負けして無理な攻撃からミスをした。体力的な負担はあるが、粘っていれば得点につながるというパターンが身についてきた。

 だが、トップ選手として相手の研究対象にされると、守っているだけで勝つのは難しくなる。相手にプレッシャーがかからず、攻め方を工夫されて崩されてしまう。結果、攻撃に回ったときに早く決めたいという焦りが生まれる。いつしか、ローテーションからの連続攻撃が持ち味だったはずが、守備で我慢をして、相手が高く上げたときに、福島が後衛からパワースマッシュを打たなければ、自分たちから得点を取りにいくことができないというパターンに陥ることが増えていた。

 しかし、今大会では、福島がスマッシュと見せかけてネット前に緩い球を落とすドロップショットや、相手のいないスペースへの配球を増やして、焦らずに相手を攻略。少し甘い球が浮いたところを、廣田が持ち前のスピードで前に飛びつき、たたき落とした。レシーブでも積極的に相手を揺さぶり、攻守交代へ持ち込んだ。

 決勝戦の試合終盤は、攻撃の主導権を取るための低い球の応酬が増えて相手にペースが傾き始めたところで「相手が結構スピードを上げてきて、廣田が少し遅れている場面もありましたし、相手が低い展開をやりたかったと思う中で付き合い過ぎているところもあったので、もう少し大きな展開をしていこうと話しました」(福島)と守備ベースの戦術に変更。福島が決める、廣田が決める、守ってミスを誘う。戦術パターンが増えたことで、相手に試合の流れをつかまれ、連続失点を喫するパターンが今大会では消えていた。東京五輪の金メダルという大きな目標に向け、結果だけでなく内容面でも大きく前進する大会となった。

五輪に向けて「早く決まってくれれば…」

 BWFは、13日に全英オープン後の大会を4月12日まで行わないことを発表。新型コロナウイルスの影響により、今後の動向は不透明だ。

 福島は「新型コロナウイルス問題の状況がある中、大会が無事に開催されて(当面、開催が決まっているのは)この大会だけというのもあったので、気持ちを入れて試合に臨んで、すごく楽しかったです」と話したが、五輪そのものの開催可否や延期案についての言及も報じられていることについて聞くと、「いつあるのかという日程面は、気になります。早く決まってくれれば調整はしやすいので……」と本音を吐露した。

 先行きが見えない中でも、選手は前に進むしかない。2人は、英国の地で大きく前へ一歩進んだ。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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