20歳日本のエースは小さな枠に収まらない 無名からMVPへ西田有志の成長を追う

岩本勝暁

きっかけは2019年秋W杯、エグい19歳が現れた

無名の新人からバレーボール日本のエースへ――西田有志、20歳の成長を追った 【写真は共同】

 2017年秋。ジェイテクトSTINGSが本拠を置く愛知県刈谷市。先にチームに合流していた内定選手の2人は、まだ会ったこともない同期入団の17歳について聞かれ、声を揃えてこう言った。

「エグいっす」

 無名の存在だった。春高バレーの出場はゼロ。サウスポーで、高いジャンプから放たれる強烈なスパイクは――、YouTubeを通して見る限り確かに迫力があった。だが、それ以外の情報は皆無に等しかった。

 2年後。Vリーグの会場が膨れ上がった。開場前からファンが長蛇の列を作った。背番号「14」が入ったオフィシャルグッズは、あっという間に在庫が尽きた。スマホのカメラが、無数の目玉となってその一挙手一投足を追う。ウォーミングアップでスパイクを打てば、それだけでスタンドのあちこちからどよめきにも似た黄色い声があがった。

 きっかけは、2019年秋のワールドカップだ。主力が抜けていたとはいえ、リオ五輪銀のイタリア、世界ランク5位のロシアを撃破。日本は過去最多の8勝を挙げ、28年ぶりの4位という好成績を残した。

 エグかったのが、オポジットの西田有志だ。

 最終カナダ戦。第5セット、9−9の場面でサーブが回ってくると、6本中5本のサービスエースでチームを勝利に導いた。歓喜のクライマックス。ラグビーに押されていたバレーボールの人気は、19歳のサウスポーエースによってたちまち列島を駆け抜けた。

特筆すべきは日本人初の得点王

 2020年2月29日、高崎アリーナ。Vリーグ男子1部プレーオフ決勝。

 ジェイテクトSTINGSの高橋慎治監督は、パナソニックパンサーズとの激闘を制したあとの記者会見で、西田に最大限の賛辞を贈った。

「MVP(最高殊勲選手賞)に加えて、得点王(最多得点)とサーブ賞(サーブ効果率)も獲得した。彼の実力、能力の高さを、シーズンを通して見せてくれました」

 特筆すべきは日本人初の得点王である。アタック526点、ブロック49点、サーブ70点。レギュラーラウンドの100セット(27試合)で645点を稼ぎ出し、2位のトーマス・エドガー(JT広島)に59点の差をつけた。

 まさに点取り屋。オポジットの仕事を十分に成し遂げた。

 シーズンを通して身につけたのは、攻撃の緩急だ。強烈なスパイクもさることながら、相手ブロックをあざ笑うようなフェイント、プッシュで空いたスペースにポトリとボールを落とす。時には空中で体を反転させ、伸ばした腕を背中越しに振り抜くバランススマッシュで観客を魅了した。

 課題と言われていたパフォーマンスの波もなくなった。セッターの中根聡太が、エースの成長についてこう語る。

「昨シーズンとの比較になりますが、悪いトスの処理が上手になったと思います。僕が悪いトスを上げても、西田はフェイントなどで相手が嫌がるコースにボールを落とす。昨シーズンは悪球打ちが多く、ブロックに何度も捕まっていましたから」

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著者プロフィール

1972年、大阪府出身。大学卒業後、編集職を経て2002年からフリーランスのスポーツライターとして活動する。サッカーは日本代表、Jリーグから第4種まで、カテゴリーを問わず取材。また、バレーボールやビーチバレー、競泳、セパタクローなど数々のスポーツの現場に足を運ぶ。

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