日本女子マラソン動かす22歳の次代エース 一山麻緒、転向1年でつかんだ五輪切符

折山淑美

スピード強化→マラソンへ 着実にステップアップ

指導する永山忠幸監督(右)は「競技者として素晴らしい資質がある」と一山を評価する 【写真:森田直樹/アフロスポーツ】

 鹿児島・出水中央高時代は、全国高校総体の1500メートルと3000メートルで予選落ちという成績しか残せなかったが、高橋尚子や野口みずき、有森裕子を見てあこがれたマラソンへの気持ちを、高校時代の恩師が後押ししてくれた。その後、マラソンをやりたいと2016年ワコールに入社。「ワコールに来てからの練習や普段の生活を見て、すごく素直で、マラソン選手というよりも競技者として素晴らしい資質があると思い、それを伸ばしたいと思いました」と永山監督。まずは駅伝などを通じてスピード強化から始めた。

 そして社会人2年目の2017年には5月に1万メートルで自身初の31分台となる31分49秒1を出すと、3000メートルと5000メートルでも自己新記録をマーク。12月の山陽女子ロードレースでは、2016年リオデジャネイロ五輪代表の上原美幸(第一生命)からわずか1秒遅れの1時間9分14秒の3位に入り、次代の日本女子マラソンを背負う候補として名前が挙がるまでになっていた。まさに、しっかりステップを踏んでのマラソン転向。初マラソンから1年でここまで上り詰めたのも、彼女の「マラソンをやりたい」という思いにブレがなかったからだ。

挑戦する姿勢に見た“MGC効果”

 日本陸上競技連盟の瀬古利彦マラソン強化戦略プロジェクトリーダーは、「前半から自信を持っていたが、後半のハーフの方が23秒速いのは驚き。もっと良いコンディションだったら、20分を切っていたと思う」と評価するように、日本女子マラソンを動かせる選手の登場と言える。

 1月の大阪国際は、中盤以降に記録を狙う走りをしたのは松田のみだったが、今回はチームメートの安藤のみならず、一般参加の佐藤早也伽(積水化学)や細田あい(ダイハツ)も中間点以降まで参戦し、29キロの仕掛けから遅れた安藤も、後半粘って2時間22分41秒で2位に入った。事前の練習があまりこなせなせず、当初は5キロ17分台の第2集団で行かせる予定だったことを考えれば、復活の気配を見せる走り。また、初マラソンだった佐藤も29キロまでついて、2時間23分27秒で5位。25キロ手前まで粘った細田も自己新の2時間26分34秒で8位と、挑戦する姿勢を見せた。

 男子のみならず女子も、まだ少人数ではあるが挑戦する意識を前面に出すようになったのは、MGC効果だろう。五輪代表を手にできなかった松田も、これからは一山の記録や2時間19分台をターゲットにするはず。日本女子マラソンも、一気に動き出しそうな状況になってきた。

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著者プロフィール

1953年1月26日長野県生まれ。神奈川大学工学部卒業後、『週刊プレイボーイ』『月刊プレイボーイ』『Number』『Sportiva』ほかで活躍中の「アマチュアスポーツ」専門ライター。著書『誰よりも遠くへ―原田雅彦と男達の熱き闘い―』(集英社)『高橋尚子 金メダルへの絆』(構成/日本文芸社)『船木和喜をK点まで運んだ3つの風』(学習研究社)『眠らないウサギ―井上康生の柔道一直線!』(創美社)『末続慎吾×高野進--栄光への助走 日本人でも世界と戦える! 』(集英社)『泳げ!北島ッ 金メダルまでの軌跡』(太田出版)ほか多数。

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