中山由起枝が思いを込めて引くトリガー 銃口に反映される“クレー射撃の心理面”
尊敬するライバルは中山と同じくママアスリート
同じ子を持つママアスリートとして、ステフェツェコバの姿勢には中山も感銘を受けたようだ 【写真:C-NAPS編集部】
ステフェツェコバはリオ五輪前に私に相談してきたことがあって、「子どもが欲しいの。そのためには五輪も諦める。次の大会に切り替えるわ」と打ち明けてくれました。私も娘を育てる母親なので、競技との両立の大変さはすごく分かります。彼女は有言実行をするタイプなので、リオ五輪に関しては出産を優先しましたが、東京五輪ではきっと素晴らしい活躍を見せてくれると思います。本当に強い意志を持った選手ですし、尊敬の念すら覚えますね。二児の母になって試合から遠ざかっている彼女が、東京の地でどんな戦いをするのかにはぜひ注目してみてください。
もう1人はロンドン五輪で金メダルを獲得したジェシカ・ロッシ(イタリア)ですね。前回チャンピオンながらリオでは出場権を獲得できず、同じイタリア人のスタンコ・シルヴァーナが獲得した枠で出場を果たしました。その結果、ファイナルには残ったものの、メダルは獲得できなかったんですよね。東京五輪ではロッシとシルヴァーナがともに出場権を獲得しているので、そうした背景を知ったうえで2人のプレーや関係性に注目するとより観戦を楽しめると思います。この4年間、2人の間にはいろいろなドラマや葛藤などがあったはずです。
世界には彼女たちのような強力なライバルがいますが、打ち勝つには日本人特有の繊細さや器用さに加えて安定感が非常に重要になりますね。クレー射撃は運良く金メダルを獲得できる競技ではありません。最小限のミスに抑えることはもちろん、どんなことにも動じないメンタルを持ち、さらには相手に対しては思いやりを持つことも大切です。時にはずぶとく、時には繊細に、時には自分の息をしっかりと感じるくらい感覚を研ぎ澄ましクレーを撃ち落とす――クレー射撃はそんなスポーツなんですよね。
東京五輪でメダルを獲得し、競技人生に花を咲かせたい
トリガー(引き金)を引く際に重要になる爪には、意識してネイルを施している。気分を高める意味でもプラスに作用している 【写真:C-NAPS編集部】
私が23年間にもわたり競技を続けることができたのは、近くに居てくれた両親や多くの方の支えがあったからです。特に家族に関しては、私の夢の実現を一丸となってサポートしてくれています。競技で生計を立てているだけに、クレー射撃は私にとっては仕事でもあるんです。生活がかかっていたからこそ、競技と子育てを両立できたのだと思います。娘も18歳になりましたが、涙あり、感動あり、笑いあり、挫折ありと喜怒哀楽な人生をともに過ごしてきました。娘は無事に大学進学を決めてくれたので、今度は私が結果を出す番ですね。
東京五輪で5大会目となりますが、残念ながらまだメダルには手が届いていません。競技人生の中で苦労や挫折もたくさん味わい、五輪の度に自分を見つめ直してきました。でもまだ諦められない気持ちがあります。だからこそ、自国開催の東京五輪でメダル獲得という結果を残して、「競技人生に花を咲かせられたら」と思っています。