「狂気」の薄れたクラシコに何を見る? 名物アナウンサー倉敷保雄氏の着眼点

吉田治良
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ラ・リーガでの対戦成績は、UEFAのデータに基づけば72勝34分け72敗とまったくの互角。首位攻防戦の側面も持つ今回のクラシコで、どちらが一歩リードするのか 【Getty Images】

 豊かな知識をベースにしたユーモアあふれる語り口で知られる、フリーアナウンサーの倉敷保雄氏。いまや日本のサッカー中継に欠かせない存在は、その長いキャリアの中で何度もクラシコの実況を担当してきた。近年、かつてスタジアムを支配していた「狂気」や「憎しみ」が薄れつつあると実感しているという同氏だが、久しぶりの首位攻防戦となる今回のクラシコをどう見るのか? 独自の視点で注目の一戦を展望してもらった。

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放送席にいて震えるほど怖かった記憶

──いよいよクラシコですね。アナウンサー歴の長い倉敷さんにとっても、クラシコはやはり特別な試合ですか?

 クラシコが特別なものだと僕が知ったのは、2002年11月23日、レアル・マドリーに禁断の移籍をした(ルイス・)フィーゴが、かつての本拠地であるカンプ・ノウに二度目の帰還を果たした試合なんです。そこで耳にしたのは、「ブーイング」なんて言葉じゃ絶対に収まりきらない、まさしく「人を呪う声」でした。古代ローマのコロッセオって、きっとこういう雰囲気だったんじゃないかと想像できるような、殺意のこもった憎しみがスタジアムに渦巻いていた。たったひとりの人間に対して、10万人近い人たちがこれだけの憎悪の言葉と視線をぶつけられるんだと、僕は現地の放送席にいて、震えるくらいに怖かったんです。

 それは情熱なんかではなく、狂気。この一戦に懸けるっていうのは、つまりはこういうことなんだ、特別な試合というのは、こういうものを指すんだって、僕はその時に知ったんです。

──世界にはさまざまなダービーマッチがありますが、その中でもクラシコは特別だと?

 ライバル関係というものが何から生まれるかというと、たいていの場合はいさかいや誤解。そこから始まって、いつしか互いを憎み合うようになる。すべてのダービーマッチを紐解いていくと、そういった継続したテーマというか、筋書きがあるんです。もちろんクラシコも、フランコ独裁政権時代からの「中央政府対カタルーニャ」という図式はあるんだけれど、そこに突然、筋書きにはない「裏切り」の要素が加わると、人はここまで憎しみの狂気に駆られるんだって実感したわけです。

 結局、フィーゴはお金でバルサからマドリーに動いた。そうした想いも、憎しみの感情に拍車をかけていたでしょう。当時のスペインの通貨であるペセタに引っかけた「ペセテーロ(守銭奴)」という言葉で、現地の新聞は埋め尽くされていましたからね。

──あれから20年近くが経ちますが、近年のクラシコにも変わらず特別な想いを抱かれていますか?
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著者プロフィール

1967年、京都府生まれ。法政大学を卒業後、ファッション誌の編集者を経て、『サッカーダイジェスト』編集部へ。その後、94年創刊の『ワールドサッカーダイジェスト』の立ち上げメンバーとなり、2000年から約10年にわたって同誌の編集長を務める。『サッカーダイジェスト』、NBA専門誌『ダンクシュート』の編集長などを歴任し、17年に独立。現在はサッカーを中心にスポーツライター/編集者として活動中だ。

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