WSD歴代編集長が選ぶ「史上最高の名手」 初代・粕谷秀樹氏、9番は“バティ推し”
「ゴールゲッター=9番」という観点から、粕谷氏が最高評価を与えたのがバティストゥータ。DFを蹴散らしてゴールに向かうスタイルは、まさに「9番」のイメージにぴったりだという 【Getty Images】
CBにとって一番怖かったんじゃないかな
インザーギのようなストライカーは希少。技術的にもフィジカル的にも特筆すべきところはなかったが、動物的なゴール嗅覚の持ち主で、DFとの駆け引きにも長けていた 【Getty Images】
吉田治良(以下 吉田):90年代以降の選手から選ぶんだよね?
大類:そうです。線引きが難しいんですが、ジーコ、(ミシェル・)プラティニあたりは対象外。全盛期が90年代にかかっている(ディエゴ・)マラドーナ、(マルコ・)ファン・バステンのような選手はオーケーとしましょう。
粕谷秀樹(以下 粕谷):了解。
大類:では早速、ゴールゲッターからいきましょう。
粕谷:「9番」というふうに考えちゃいけないの?
大類:いいと思いますよ。ゴールゲッターという言葉をどう捉えるかもそれぞれで。
吉田:粕谷さんが考える「ザ・ストライカー」は誰ですか?
粕谷:90年代以降だと(ガブリエル・)バティストゥータかなあ。「9番」らしかったよね、一番。右足も左足も使えて、ヘディングでも決められたし。フィオレンティーナの時は(マヌエル・)ルイ・コスタ以外に頼りになる選手がいなかったのに、それでもゴールを量産してたからね。ズラタン(・イブラヒモビッチ)は「9番」じゃないし、ブラジルのロナウドはすごかったけど、ケガや病気で長く戦列を離れていたのがマイナスかな。
バティより足下の技術があって、うまい選手はたくさんいたよ。でもセンターバックにとって一番怖かったのはバティなんじゃないかな。だって、壊されそうだもん。ディフェンダーを蹴散らして点を取る。「9番」って、そういうイメージなんだよね。
吉田:最近の選手みたいに何でもできるわけじゃないけど、ピッポ(フィリッポ・インザーギ)はいやらしいというか、あの嗅覚、感性はすごかったと思う。“ごっつぁんゴール”があれだけ多いストライカーは他にいないよね。
粕谷:100回オフサイドになっても101回目に(点を)取ればいいや、って感じでな(笑)。レフェリーとかディフェンダーとの駆け引きが絶妙で、それにあの見事なダイブ。ダイブもあそこまでいくと芸術だよ(笑)。VARがある今だったら、すぐにカードをもらいそうだけど。
吉田:ああいうタイプのストライカーがいなくなりましたよね。
粕谷:いていいよね。VARが導入されてから、駆け引きがなくなって、なんか面白くなくなったよな。
吉田:あの頃で言うと、(クリスティアン・)ビエリもすごかったですよね。怪物感がありました。
粕谷:バティと同じで、ディフェンダーを壊す選手だよね。ゴリゴリいって、多少コントロールをミスしても強引にシュートまで持っていっちゃう。
大類:得点数でいうと、クリスティアーノ・ロナウドと(リオネル・)メッシが突出してますよね。
吉田:2人ともPKとFKがあるのは大きいよ。その点、ブラジルのロナウドなんかはFKを蹴らないのに量産してたもんな。
粕谷:全盛期には、彼のドリブルに追いつけるディフェンダーはいなかったからね。ボールを持っている選手がなんでマーカーを引き離していくのか、普通に不思議だったよ(笑)。
大類:異次元でしたね。バルサでの1年と、インテルに行ってケガをするまでの1年半くらいですか。あの頃の支配力はメッシより上だったと思います。
吉田:バルサ時代のあのゴール……コンポステーラ戦だっけ?
大類:たしか、そうです。ハーフウェイラインの手前から次々と抜き去って決めたやつですよね?
粕谷:やっぱり「9番」の選手にしたいよな。
大類:現役の「9番」だとベストは誰ですか?
粕谷:(ロベルト・)レバンドフスキかな。何でもできるけど、サイドで生きる選手じゃないよね。やっぱり真ん中でゴリゴリいく「9番」。
吉田:(ハリー・)ケインはどうです?
粕谷:すごい選手だよ。「9番」というより「9.5番」かな。器用だよね。でも、バティとかビエリみたいなすごみは感じないな。この先出てくるかもしれないけど。「悪そう」じゃないよね(笑)。
吉田:ストライカーってそういう部分が必要ですからね。抜け目のなさというか。
粕谷:忘れてたけど、(ジャンルカ・)ビアリも「9番」ぽい選手だったよな。でもやっぱりバティかな。
大類:バティにしますか。ロナウドは全盛期が短かったですしね。
■WSD歴代編集長が選ぶ史上最高のゴールゲッター
ガブリエル・バティストゥータ(フィオレンティーナなど)
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デ・ブルイネのパスは「優しくない」
吉田氏が「認めざるをえない」と評価するシャビを、「ああいう選手は二度と出てこないかもしれない」と粕谷氏も絶賛 【Getty Images】
粕谷:(即答で)マラドーナ。何でもできたからな。メッシよりマラドーナのほうがすごいと思うんだよな。
吉田:僕らくらいの世代はそうですよね。
大類:パサーは難しいですね。ゲームを作るタイプと、マラドーナとかロナウジーニみたいにラストパスで輝くタイプ。大きく分けると2つのタイプがありますね。
粕谷:(ケビン・)デ・ブルイネはすごいパスを出すよ。信じられないところから前線に通しちゃう。マンチェスター・シティの試合で何を見たいかと言えば、やっぱりデ・ブルイネだもんな。
吉田:デ・ブルイネのパスって強いですよね? シャビとか(アンドレア・)ピルロのパスとは違いますね。
粕谷:(受け手に)優しくないパスだよね。「お前ら止めろよ」って感じで(笑)。でも相手にとっても対応しづらいパスなわけだから。シティ以外のチームに行ったら、前線の選手はコントロールできないんじゃないかな。
吉田:やっぱりシャビかな。純粋に、認めざるをえない。タメを作って、(右サイドバックのダニエウ・)アウベスの上がりを引き出して出すパスなんて極上だったよ。今のバルサにはああいうパスがないもんな。
粕谷:確かにシャビはハンパなかったな。二度と出てこないかもね、ああいう選手は。
吉田:シャビがいなくなった後のバルサは、サッカーを変えざるをえなかったですからね。
粕谷:パサーで無視できない選手がもうひとりいるよ。
大類:誰ですか?
粕谷:(カルロス・)バルデラマ。インサイドキックだけで、あれだけゲームを作れるのはすごい。
大類:南米だからこそ、生まれた選手でしょうね。
粕谷:そうかもね。ヨーロッパだったら直されていたかもしれない。
吉田:現代のサッカーでどれだけやれたかは分からないけど。
大類:タイプは違いますが、(フアン・ロマン・)リケルメとか、最近なら(パウロ・エンリケ・)ガンソとか、ああいう特殊なスタイルの選手は生きにくくなりましたよね。他には(イバン・)デ・ラ・ペーニャとか。
吉田:デ・ラ・ペーニャ!
大類:スーパーパサーでしたよね?
吉田:そうだった。輝いた時間は短かったけど。
粕谷:あとはルイ・コスタか。カッコよかったよな。
吉田:フィオの選手で(ワールドサッカーダイジェストの)表紙にしたのはバティだけでしたっけ?
粕谷:いや、ルイ・コスタもあったんじゃないかな。たしか、白のユニホーム。
吉田:フィオの選手が表紙を飾るなんて、もうないでしょうね。
粕谷:まあ、ないな(笑)。あの頃のセリエAでは、(フアン・セバスティアン・)ベロンも良かったよね。プレミアに行ったのが失敗だった。練習で(デイビッド・)ベッカムのキックを見て、ショックを受けたらしい。移籍しなきゃよかったって(笑)。
吉田:僕はやっぱりシャビですかね。ピルロのロングレンジのパスも素晴らしかったですが。
粕谷:シャビでいいんじゃないか。
吉田:シャビとかピルロはあまり点を取らなかったですよね。点も取れるパサーとなると誰だろう。まあ、メッシか(笑)。
大類:メッシとマラドーナはすべてがすごいですから。
吉田:そう考えると、(ロベルト・)バッジョって何だったんだろうな。
粕谷:確かにな。途中からかわいそうになったもんな。ポジションがないチームにばかり行って。ブレッシャでは王様だったけど。
吉田:バッジョには稼がせてもらいましたよね?(笑)
粕谷:本当にな(笑)。
吉田:創刊号には(バッジョの)テレカのプレゼントを付けて。
粕谷:あったな。
吉田:当時はハガキでの応募で、ものすごい数が来て。あのテレカ、まだ持ってますよ(笑)。
■WSD歴代編集長が選ぶ史上最高のパサー
シャビ(バルセロナなど)
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