予想が裏目で「実力通り」のレースに 藤原新が考える日本マラソンに必要な備え
「いつもの川内くんらしさがなかった」
集団についてレースを運んだ山岸。日本勢最高の25位だったが、後半思ったほど伸ばすことができなかった 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
僕の目線からすると、いつもの川内くんらしさが出ていないように感じましたね。前半はある程度ついていって、いったん落ちたと見せかけてそこから上げる、というのが川内くんだと僕は思うんです。しかし、今日のレースはまず最初、(集団に)つかなかった。最初、集団につかないと後半の粘りもあまり意味がなくなってくるので、川内くんの強みが生きるようなレースではなかったのかなと思います。
――事前会見では「夏の走り込みを終えても、スピードが上がってこなかった」とも話していました。
そうですね。(7月の)ホクレン・ディスタンスチャレンジで(5000メートル)14分29秒という結果だったのですが、川内くんの力からすると14分半だと調子が悪いのかな、と見ていました。川内くんは5000メートルのベストが13分58秒台なので、14分10秒か、せめて15秒くらいでは走っておかないと、動きに余裕がなくなってくるんですね。そこで「練習がうまくいってないのかな、走り込みでスピードがでなくなってしまったのかな」と、何となく感じて心配していました。
――山岸選手と二岡選手は、世界選手権が初めての挑戦でした。2人の走りはどう見ていましたか?
山岸くんが上位を追えるのかなと思ったんですが、後半伸びなかった。二岡くんもちょっときつそうな走りだったと思います。今回はMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)組が出場を避け、すべり込む形でチャンスが巡ってきたので、経験としては良かったと思います。すごく良いチャンスだったので、それを最大限生かしてくれれば良かったんですが、結果はそう甘くなかったですね。
「実力通り」のレースをするためには?
内定している中村匠吾くん(富士通)と服部勇馬くん(トヨタ自動車)は、実力があるので、実力通り(の力)を発揮してくれれば、入賞やメダルも可能だと思います。おそらく必要になるのは「実力を発揮すること」だと思いますね。大舞台ではそれこそが難しいポイントではあるのですが。どういうレース展開になるかは分からない部分もあるので、いくつかシナリオを書いておいて、どのパターンになっても対応できるようにしておくのが重要ですね。
――女子マラソンは完走率が60%を下回るなど、相当厳しいコンディションになりました。一方で男子は想定よりも走りやすい気候になったように、全く異なる様相になったと感じています。そうした意味で、どんな展開になっても対応できる実力をつけなければいけないということでしょうか。
そこに答えはないと思います。「暑くなる」とヤマを張って準備するのも1つでしょうし。実際に暑くなってドンピシャで戦略にハマると賞賛されることになるでしょう。一方で涼しくなってしまったとしたら、対応できなかった場合には厳しい評価を受けることになると思います……。いずれにせよ、それを選択するのは選手なのでそういう意味で答えはありません。ただ3人が同じ戦略でいくのはやめた方がいいような気がします。「地力を上げる」のは(東京五輪までの)1年弱ではなかなかできないことなので、大きくは変えられません。
当たり前のことではありますが、やはり自分のベストコンディションで臨むということが大事だと思います。僕も経験がありますが、五輪は注目されるし、「頑張ろう」と知らず知らずのうちに力が入ってしまう。普段のリラックスした状態で練習に臨める環境を整えるということや、プレッシャーのコントロールなどについては、所属チームが協力して、表に出させるとこ、出させないところの管理や メンタルケアなどみんなでサポートしてあげる体制の中でやっていくのが大切ではないかと思います。それが「実力通り」のレースをするために必要なのではないかと思いますね。
――「実力通り」と言葉にするのは簡単ですが、見えないプレッシャーなどを受けながら、それを発揮するのは並大抵のことではないですよね。
注目度も高いですので、公開練習などは交通整理を陸連にお願いするとか、過剰なプレッシャーにならないコメントのあり方とかについても、サポートチームとしっかりと考えていくのがいいと考えています。僕があれこれ言う話ではないのですが(笑)。僕の経験談として、そうした方が良かったかなと感じました。
(取材・文:守田力/スポーツナビ)