配球の変化に対してもアジャスト

「(特定の)球種を待ったりとか、コースを待ったりとかっていうタイプではない。基本的には(どのカウントでも)アプローチは変わらない」
大谷はヤマを張らない。ただ、対戦を重ねる中で、体が相手投手の傾向を覚えていく。そこからある程度、狙い球を絞り込んでいく。もっとも、相手も大谷の傾向を学習するわけで、そうすると当然、配球が変わる。
今季、それが顕著だったのは前半の最後ぐらいから。大谷自身、「配球が変わっている」と口にした。
その変化。かつてその一部を紹介したが、もう少し間口を狭めてみると、よりそのことがはっきりした。まず、状況を右投手が投手有利のカウントになったときの配球に絞った。そして期間を5月7日〜7月4日(期間A)と7月5日から29日(期間B)の2つに分けた。
すると期間A(図1)では、4シームの比率が一番多く38.4%。カーブ18.2%、チェンジアップ11.9%、スライダー11.9%と続いた。一方、期間B(図2)では、チェンジアップとスライダーがともに27.9%で、4シームが18.0%。続いてカーブが14.8%だった。
つまり、期間Aでは、投手有利のカウントで右投手が大谷に4シームを投げる確率は40%近かったが、期間Bではチェンジアップとスライダーを合わせた比率が50%を超えた。一方で、4シームは18.0%に下がっている。つまり、投手有利のカウントでは、配球の軸が4シームからスライダーとチェンジアップへと変わったのだ。


コースにも大きな変化が見られた。期間A(図3)では、投手有利のカウントながら、相手はストライクゾーンで仕留めにかかっている。期間B(図4)では一転、外角低めの枠外に配球が集中している。そもそも後者の方が理にかなっているようにも映るが、それだけ相手が大谷を警戒している、ということの証明か。


もっとも、後半が始まって2週間ほどすると 「(配球などの変化に対して)しっかりアジャストできるような取り組みは上がっている。いいこと」と大谷は話している。変化への適応に手応えを感じ始めていたようだ。
大谷が手を焼いた、マリナーズの左腕2人

なお余談だが、そうした適応力に定評のある大谷でも、マルコ・ゴンザレスとウェイド・ルブラン(ともにマリナーズ)だけは今年も打てなかった。デビュー以来、大谷には9回以上対戦してヒットを打っていない投手が2人だけいるが、それが彼らなのである(ルブランとは13打数ノーヒット、9三振。ゴンザレスとは7打数ノーヒット、3三振。2人合わせて20打数ノーヒット、12三振)。
ともにカッターとチェンジアップを主な持ち球とし、大谷に対する配球が4シームとスライダーだけで6割近くを占める他の左投手とは一線を画す。彼ら2人合わせて、大谷に4シームを投げる割合はわずか3.8%で、スライダーに至っては1.3%だ。一方で、カッター、チェンジアップ、カーブの3球種を合わせた比率は70%近い。
攻め方のパターンはいくつかあるが、大谷が手を焼いたのは、カッターやカーブで追い込まれてからのチェンジアップ。

全14球のうち、8球が2ストライクから。ボールになる確率も40%強と高いが、この球で空振り三振3つ。見逃し三振が1つ。そもそも左投手が左打者にチェンジアップを投げることは珍しいが、それだけ2人ともこの球に自信を持っている。ゴンザレスは、「必要なのは恐れずに投げること」と言ってから、続けた。
「落ちなければ危険な球だ。でも、そのために練習もしている。きっちり内角低めに決まれば、効果も大きい」
追い込むまでも過程もまた興味深いので、またいずれ機会があれば紹介したい。
さて、手応えほどに数字が伸びなかった後半。手術に踏み切った左膝の痛みが影響したのでは、と容易に想像できるが、大谷はきっぱり言った。
「誰しも痛みを抱えながらやっている。そこは言い訳にはならない」
そこにも大谷の選手としての姿勢が現れていた。
JALは、日米間の渡航サポートを通じて、世界を舞台に挑戦を続ける大谷選手を応援しています
