10年ぶりの世陸で寺田明日香が目指すこと 「ここまでやってきたことが出せるか」
サッカー選手も走りの参考にする「遊びの感覚」
陸上のみならず他競技の選手の動きも分析し、自身の動きとつなぎ合わせている 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
そうだと思います。前だけに走っているときは、全然見えなかったので。速い選手を見ても、どういう(体の)使い方をしているかは分からなかった。今なら「ここを使っているんだ、ここ(筋肉)の出力が大きいんだ」というのが結構分かる。高野さんと話していてもあまり外れていることがないので、そこがすごく良くなったというか、遊べるようになったということですね(笑)。
――普段参考にしているのは、同種目であるハードルの選手ですか?
それもありますけど、別の種目も見ています。たとえば100メートル走や走高跳、走幅跳などもそうですね。あとはサッカー選手を見ることもあります。サッカーは陸上との違いを見て、どう止まるか、どうボールをさばいているかを分析していますね。「この動きを陸上に置き換えると、(体の)こっちを使わないといけないな」みたいに。
――ちなみに、具体的にはどんな選手を参考にしているのでしょうか?
秘密です、いっぱいいるので(笑)。ただ、ハードルでいえば例えばケンドラ・ハリソン(アメリカ、女子100メートルハードルの世界記録保持者)ですね。身長がほぼ一緒なのに、なぜ12秒20で走れるのかな、と思いますよね。彼女と比べて自分に何が足りないかは、明確に分かります。でも、自分に似ているというか、イメージの中にある動きをする選手を見るようにしていますね。「この人とこの人は似ているので、それを組み合わせたらどうなるだろう」と、近い動きをしている人を自分の中でつなぎ合わせてみるイメージです。
――それはいろいろな発見がありそうで、すごく面白そうですね。
はい、いつも動画を見ながら、自分の中のイメージと照らし合わせて「ここで(体を)こう使うから、1回やってみよう」という感じで、ぶつぶつ言いながら練習しています(笑)。
寺田明日香が考える自身のキャリア、そして東京五輪に向けて
世界陸上では「あわよくば12秒84で走りたい」と東京五輪の参加標準記録を見据えつつ、「やるべきことを見失わないようにしたい」と意気込んだ 【スポーツナビ】
選手というものはいつか辞めることになるので、その先に行くには運動以外で自分は何が得意なのかを知らなければいけないし、周りの人たちにもアプローチしなければいけません。そうして新しいつながりもできますし、現役の時から作っておかなければいけないと考えています。現役の時に別の仕事関係で人脈を作っておいたほうが、辞めた時に「こういう提案ができるかもしれない」と思ってもらえるかもしれないので。
例えば一般のお仕事でも転職するとなった時に、一回辞めてから少し期間を置く方と、ほぼ被っているくらいの短期間で変える方がいますよね。自分は「休みたいな」と思うこともありますが、休んでいるとどんどん腐っていくように感じるので。価値も薄れていくし、やっぱり並行してずっとやっていきたいなと思います。
――なるほど。その中で、練習時間を工面されているんですね。
(午前、午後の)二部練習を取り入れたりもしているので、練習する日を絞っても回数自体はむしろ増えています。練習自体の強度は高いと思います。前に調子が良かった19歳の頃と違ってもうすぐ30歳になるので、同じように練習していても疲れ方も違います。だから練習はしっかりやって、休む時は2日連続でも休むという形にしないと、強度のある質の良い練習ができなくなります。休みの間に体のケアを行って、仕事をしてというように時間が流れているので、今のスケジュールはベストだと思っています。
――あらためて、寺田選手にとってご家族はどのような存在でしょうか?
娘の果緒は私にとってもモチベーションであり、厳しいアドバイザーでもあります。ラグビーから陸上に戻って、「ママがよーいどんの選手だ」ということはよく理解していて。一番プレッシャーをかけてくるのが果緒ですし(笑)、一番誰のために頑張りたいかというのもやっぱり果緒ですね。
――果緒ちゃん、そんなにプレッシャーをかけてくるんですね。
一番さらっと言ってきますね。「ママが足遅いから悪いんじゃない」というように(笑)。「ママが一番じゃないと嫌!」とも言ってきます。「ママ、どうしたら足速くなれるかな」と聞いた時も、「ちゃんと食べてちゃんとお水飲んで、ちゃんと寝ればいい。それで練習すればいい」と、変な知識がない分、当たり前のことを純粋に言ってくるんです。大人だと技術とか道具とか、細かい部分に目が行きがちなんですけど、小さな子だと忘れかけていた根底のことを指摘してくれるので、そこがありがたいですね。
――なるほど。最後に、この世界陸上が終われば、いよいよ来年には東京五輪が待っています。そこに向けて、この世界陸上で目指したいものはありますか?
福井で13秒00、北麓で12秒97で走りましたが、わりといい条件下だったと思うんですよね。世界陸上は移動もあって時差も少しあって、圧倒的に速い人と走ることになるので、状況が変わります。そこで今と同じくらい、もしくは今以上の力が出せないと、来年の五輪でも発揮できないと思うので、できるだけ多くを経験したいと思います。あと、しばらく世界のトップの走りを間近で体感していないので、やっぱり自分で見るのがすごく大事だと思っていて。あわよくば(東京五輪の参加標準記録の)12秒84で走りたいですが、成績だけにこだわらず、自分のやるべきことを見失わないようにしたいと思います。
――ご自身にとって、10年ぶりの世界陸上になりますね。
そうですね。前回は世界陸上に出ることがゴールだったと思います。「世界陸上に行きたい、あのタイム(参加標準記録)を切りたい!」と思って結局13秒05でクリアしたんです。当時はすごくうれしかったと思うし、初めての大きい世界の舞台で、一番年下で。でもその頃から比べるとある程度色々分かってきて、モチベーションもやるべきことも当時とは違う。年齢もまあまあ上の方になったし、そこは落ち着いて、いい図太さを持っていきたいと思います。
(取材・構成 守田力/スポーツナビ)