棒高跳・澤野大地と江島雅紀が描く夢「澤野さんと僕の、一番の理想像は…」
澤野は教え子の成長を認めつつも…
後輩の成長を喜びつつ、自身もここ数年で一番良い状態に仕上げている澤野 【写真:アフロ】
「僕のことをちゃんと見始めましたね。跳躍を見るようになりました。日本選手権の時も『澤野さんがこうやって跳んでいたので、それを真似したら跳べました』と言っていました。彼は気持ちさえ乗ってしまえば跳べる子なので、見守っているというか、『近くにいるよ』という気持ちでいますね」
先の8月の記録会では、澤野が先に5メートル71センチを跳び、追う状況になった教え子の精神状態が心配になったという。だが、江島はその不安を軽々と吹き飛ばしてみせた。
「僕が(5メートル71センチを)一発でクリアして、精神的に大丈夫かなと思ったら、僕より良い跳躍をして、『すごく成長したな』と思いました。僕はめちゃくちゃうれしかったです。そこで『なにくそ』という気持ちが、高く跳ぶエネルギーとして純粋に生きていましたね」
ただ、澤野も江島の成長を、手をこまねいて見ていたわけではない。コーチとして選手を指導し、日本大の講師として講義を行い、JOCの理事としても精力的に活動する。「全部全力です。決して手は抜いていない」と、「超」がつくほど多忙なスケジュールの中で、時間を見つけては練習を積んできた。39歳となった今でも「回復力は若い子の方が上かもしれないけど、何より技術では絶対に負けない」。今年はウエートトレーニングの数値でも自己最高の記録をマークし、ここ数年で一番良い状態に仕上がっているという。
「江島はずっと(学生年代の)チャンピオンで来たけど、『俺に勝てないじゃん』と。今年の日本選手権では負けましたが(笑)。江島にとっては、そうやって戦える相手がいたほうがいいと考えています。いち日本のトップジャンパーとして、もう少し跳び続けたいですね」
アスリートとしての自身の姿を見せ続けることが、何よりの「コーチング」につながると、澤野は確信しているように感じられた。
東京につながる大ジャンプを
「世界陸上で優勝して日の丸を掲げたい。そこが澤野さんと僕が目指している、一番の理想像です」(江島)
「確実に予選を通過して、決勝で力を出し切ることしか考えていません。今持っている経験と知識、全てを総動員したいと思います」(澤野)
当然のことながら、今大会での結果は東京五輪への出場に直結していく。予選を通過するだけでも大きくポイントを獲得できるだけに、澤野は「そのためにも、出場できたのは非常に大きなこと。だからこそ、絶対に外さないように、きっちりポイントを取りたい」と宣言した。
19歳年齢の離れた、師弟関係とライバルを両立する2人。ドーハの地で東京につながる大ジャンプを見せられるか、楽しみに待ちたい。
(取材・文:守田力/スポーツナビ)