土江コーチが語る、4継の手ごたえ 世界陸上で「財産が残るようなレースを」
白石は「日本の良い部分を伝承できる」存在
土江コーチは白石を「物怖じせず、すごく冷静」と評価する 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】
ロンドン(ダイヤモンドリーグ)で走った4走のタイムは、リオでのケンブリッジ(飛鳥、ナイキ)君が出した時のタイムと遜色(そんしょく)ないというか、むしろそれよりも良いくらいでした。それだけのパフォーマンスを一発目でできてしまう物怖じしないところがありますし、すごく冷静なんですね。今後同じメンバーで戦っていくと、どこかでその選手たちが一気にいなくなった時にレベルが下がってしまう。新しい選手が入って順繰りに回っていくことが、20年以上日本が世界のトップクラスでできている要因でもあるので。
――その良い部分を知っている選手を、どんどん新しいメンバーに入れていくということですね。
はい。うまく伝承できる、それこそそういった意味での「リレー」も必要だと思いますね。
――前回の世界選手権で銅メダルをとったメンバーと比較して、今回のメンバーが優れている点、逆に「まだ足りていない」と感じる部分はありますか?
走力はすごく上がっていますし、個の力においてレベルアップできていると思います。あと、若いチームでもあるんですよ。ケンブリッジ君はすごく経験値の高い選手ではあるんですが、今回はリザーブということになってしまっているので、走る選手は非常に若いですね。
――前回で言えばベテランの藤光謙司選手(ゼンリン)が当初はリザーバーとして入り、決勝ではアンカーとして信頼感のある走りを見せました。今回はそうした役割を担う選手はまだ見当たらないでしょうか?
その点に関しては、毎回そういう選手がたまたまいただけです。もう、ここにいる選手たちはプロとしてそれぞれ実業団でやっている選手たちなので。誰かがいないとまとまらないのではなく、それぞれの場所をプロ選手として、淡々とやってくれることが大事かなと思います。
――なるほど。2年前の話にはなりますが、決勝の直前でアンカーをケンブリッジ選手から藤光選手に変更されました。その決断の決め手はどこだったのでしょうか?
一番はバトンの安定感です。走りが大事なのは間違いないですが、それを引き出すためにもバトンのテクニックが必要で、どれだけ個人で走る部分につながるバトンパスができるかというところですね。そこがわれわれの一番のキーですが、そこが(藤光は)一番うまい選手でした。本当に簡単に変わるんです。それこそ(100メートルを)9秒8で走る選手でも、バトンで簡単に0.2〜3秒変わっちゃう。10秒00とか(10秒)10の選手と変わらなくなってしまいます。それがわれわれの大事にしているところで、9秒8で走る選手がそれ以上のパフォーマンスを引き出せるようなバトンをするということですね。それが藤光君の場合には、パフォーマンスを最大限出せるバトンの受け方ができた。
サニブラウンの合流は「やるしかないでしょう」
まあ、やるしかないでしょう。間に合う計算とかそういうことではなくて、やるしかない。彼は日本にとって欠かせない存在で、個人としてもメダルを狙う選手。両方ともいい形でやってほしい。本人とも話したんですが、「しっかりできる」という自信があるので。フロリダ大では2走で受けも渡しもやっていて、バトンの流れを見ても、われわれのコツに近いポイントを意識してやっていると聞いています。そうした点は(フロリダ大の)マイク・ホロウェイコーチとも話していて、「こういう風にやっている」と説明しています。
――最後に、改めて東京五輪に向けて、今大会で得たい成果を教えてください。
難しいですね。「メダルを取る」とか、そういう簡単なことではなくて、とにかく来年に向けて「本当にメダルをとれるぞ」という自信につながる、もしくは失敗したとしても、何か次につながる形にしたい。守って失敗したとしたら、何も残らないと思うんですよ。「金メダルを取ろう」と挑んだレースで失敗が起こったとしても、それは次やるときの、大きな資料になるので。そういう来年につながるような、必ず財産が残るようなレースをしたいと思います。
(取材・構成 守田力/スポーツナビ)