「らしくない」日本代表を救った男たち 元日本代表・藤井淳がロシア戦を解説

構成:スポーツナビ

松島のトライにつながった田中のキック

途中出場の田中史朗(中央)、トンプソン ルーク(右)らの存在がチームを落ち着かせた 【Photo by Yuka SHIGA】

――後半7分にFLラブスカフニが相手ボールを奪ってトライしたのはビッグプレーでした。

 時間帯的にも大きかったですね。相手が抱えているボールにタックルするやいなや、右腕を差し込んで下から引き抜くように奪いました。ラブスカフニ選手は体の強さがありますし、あのタックルのようにスキルもあります。その能力が一番良い形で発揮されました。
 昔は日本では低くタックルすることが良しとされてきましたが、今は低いタックルだけだと相手に読まれて、オフロードパスでボールをつながれてしまいます。今回のラブスカフニ選手のように上半身にタックルしたり、ボールのプロテクトが甘い時はそのまま奪うスキルが必要になってきますね。

――苦しい展開が続く中でLOトンプソン、SH田中らベテランも活躍しました。

 リザーブの選手のプレーは本当に素晴らしかったです。彼らの働きは首脳陣の期待以上だったのではないでしょうか。
 ベテランのトンプソン選手(38歳)と田中選手(34歳)の存在が周りを落ち着かせているように感じました。特に後半29分の松島(幸太朗)選手のトライにつながった田中選手のキックは素晴らしかった。彼をリザーブに置けるというのが、今の日本代表の層の厚さだと思います。
 PR中島イシレリ選手と具智元選手もアタックとディフェンス、そしてスクラムと力強さを出していましたし、SO松田(力也)選手はもともとランが良くて体の強さもありますが、今日は持ち味の強気なプレーで良い流れをつくりました。
 また、FB山中(亮平)選手は終盤に自陣からロングキックでしっかりゲームを切って、ロシアに流れを渡しませんでした。山中選手の左足でのキックの正確性と飛距離は前半のチームに必要だったと思いますし、今後の日本代表にとって大きな武器になりそうな気がしました。

難しい初戦で勝ち点5は素晴らしい結果

重圧のかかる試合でも素晴らしいプレーを見せた堀江翔太 【Photo by Yuka SHIGA】

――次戦のアイルランド戦に向けてどこを改善すれば良いでしょうか?

 絶対に改善しなくてはいけないのはアタックのブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)です。
 ボールを持っている選手への寄りが遅かったり、密集戦の1対1で負けてしまったり、サポートするためについていた選手が行き過ぎてしまって2人目としての仕事ができなかったりと精度が非常に悪かったです。

 今日は自国開催の開幕戦という特別な試合で、選手たちの表情を見るといつも以上に高ぶっているように感じました。そうした状況では体力的に早くバテてしまうのですが、次戦のアイルランド相手に今日の出来では勝つことはできません。
 普段からブレイクダウンの練習はしっかりしていると思うので、アイルランド戦までに改善してほしいと思います。

――選手にとっても自国開催の開幕戦は難しかったようですね。

 選手たちも重圧がかかることは想定していたと思いますが、慣れない環境でいつもの力を出すのは難しかったと思います。それでも、後半から入った田中選手たちが良かったですし、苦しい前半はHO堀江(翔太)選手が冷静にチームをまとめました。彼のような選手がいると、チームは救われますね。

 前回大会ではイングランド代表が決勝トーナメントに出られずに終わりましたし、開催国にはプレッシャーがかかります。その中で勝利と4トライのボーナスポイントで勝ち点5を取ることができたのは素晴らしいこと。この経験を生かして、アイルランド戦は思い切って戦ってほしいと思います。

(取材・文:安実剛士/スポーツナビ)

藤井淳/JunFujii

東芝ブレイブルーパスで活躍した藤井淳氏。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した 【写真:アフロスポーツ】

 1982年8月10日生まれ。身長170センチ、体重77キロ。愛知県出身。西陵商高‐明治大‐東芝ブレイブルーパス。

 西陵商高時代に全国大会に出場、明治大では抜群のスピードを生かして活躍した。東芝ブレイブルーパスでは強気のリードでFWをまとめ、ディフェンス面も向上。2012年にはエディー・ジョーンズHCにより日本代表に選ばれ、6キャップを獲得した。2019年に現役引退。

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