車いすバスケ界の若武者・赤石竜我 2020年は夢から目標、そして現実へ

宮崎恵理

2020年をリアルに目指し始めた大会

高校1年の冬、U23日本代表に選ばれたことで「東京パラリンピックをリアルに目指し始めた」と話す赤石 【スポーツナビ】

 夢が、目の前の目標に変わったのは、2017年のこと。高校1年の冬である。

 この年6月にカナダで開催されるU23の世界選手権大会に向けた選手に選出され、1月にその前哨戦であるアジア・オセアニア選手権に出場したのだ。赤石にとっては、初めての国際大会である。

「試合を重ねるごとに上達しているという手応えがありました」

 無名の新人が戦う場を得て、勢いよく伸びていく。

「東京パラリンピックをリアルに目指し始めたのが、この大会でした」

 とはいえ、そう順調に目標への道が進むわけではない。本大会となった6月の世界選手権では、世界の強さに圧倒される。

「僕はディフェンスが自分の武器だと思っていたのに、何もさせてもらえなかった……」

 日本チームはメダルに届かず4位に。アジア・オセアニア選手権で得た自信を、見事に打ち砕かれたのだった。

決定力不足…課題を痛感し努力重ねる

悔しさをバネに発奮、そして徹底的な自己分析。努力の先にフル代表の座が待っていた 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

「多分、人生で一番と言ってもいいくらい悔しい思いをしました。この時に、痛感したのは、決定力の不足です。チームの主軸である鳥海(連志)選手や、古澤(拓也)選手に頼りっきりでした」

 悔しさをバネに発奮する。赤石にとって、U23の世界選手権は大きな踏切板になった。

「ただがむしゃらにシュートを打っても意味がありません。意識したのは、どういう場面で自分がシュートを打つことが多いか、それを成功させるために何をすべきか、という点でした」

 国内大会でも、赤石は相手をかわしスピードを生かしてレイアップする場面が多い。また、0度付近からのシュートを打つ場面もある。所属する埼玉ライオンズでも、代表合宿でも、徹底的に自分を分析して取り組んできた。

 また、自分の役割であるディフェンスについても、海外の選手との対戦から「どんなに体格のいい選手とマッチアップしても当たり負けしない体とパワーを身につけること」を主眼に、フィジカルトレーニングにも励む。

 そうした努力の先に、18年にはアジアパラ競技大会にシニアの代表選手として初めて出場を果たす。大差でリードを奪われていた韓国戦では、途中出場して逆転勝利に貢献した。

 赤石は2020年に向けて、また一歩を踏み出したのだった。

主将・豊島英を手本に、躍進狙う

「本番のコートに立てる12人に入れるように。でも、そこで終わりじゃない」と赤石は話す。夢を目標にし、そして現実を超えていく 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 日本チームが目指すトランジションバスケ(展開スピードの早いスタイル)では、赤石のクィックネスとスピードは、大きな武器になる。

「でも、世界にはスピードの速い選手なんてゴロゴロいます。だからこそ、大切なのは次のプレーを読む力。バスケのIQ。それを実現するための細かいチェアスキルも重要です。日本代表の主将である豊島英選手のプレーは世界を見渡しても超一流。お手本にしています」

 現在、日本体育大1年の赤石は、地元さいたま市を離れて、ひとり川崎に住む。

「離れてみて余計にさいたまって住みやすい場所だって、実感してます。大宮は新幹線も停まるし、都心へのアクセスもいい。高校時代、毎日車いすで電車通学してましたけど、なんの不自由もなかったし」

 イメージは映画の『翔んで埼玉』そのもの、と笑う。観光の目玉などはないが、便利な街。地元を誇りに思う。たまに実家に帰れば「お母さんの肉じゃがと、翌日に肉じゃがを入れたコロッケを作ってくれて」、それを食べるのが何よりの楽しみと語る。

 目の前に迫り来る、東京パラリンピックという目標の舞台。

「本番のコートに立てる12人に入れるように。でも、そこで終わりじゃない。パラリンピックでは日本男子はこれまで7位が最高位です。そこを超えたいし、メダルを目指していきたいです」

 本番に向けた戦いはこれからも続く。熱血・赤石の躍進に期待したい。

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著者プロフィール

東京生まれ。マリンスポーツ専門誌を発行する出版社で、ウインドサーフィン専門誌の編集部勤務を経て、フリーランスライターに。雑誌・書籍などの編集・執筆にたずさわる。得意分野はバレーボール(インドア、ビーチとも)、スキー(特にフリースタイル系)、フィットネス、健康関連。また、パラリンピックなどの障害者スポーツでも取材活動中。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。著書に『心眼で射止めた金メダル』『希望をくれた人』。

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