ラグビーW杯を国民的行事にするために 民放プロデューサー「視聴率35%狙う」

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提供:(公財)日本ラグビーフットボール協会

 公益財団法人港区スポーツふれあい文化健康財団と、公益財団法人日本ラグビーフットボール協会が主催する「みなとスポーツフォーラム 2019年ラグビーワールドカップ(W杯)に向けて」の第95回が7月8日、東京都港区のみなとパーク芝浦で行われた。

 今回は「ラグビーワールドカップ2019放送のキーマンが語る」というテーマのもと、日本テレビスポーツ局ラグビー担当プロデューサーの渡辺卓郎氏と、J SPORTSプロデューサーの大谷寛氏を招き、ラグビージャーナリスト・村上晃一さんの進行で講演が行われた。

視聴率で振り返る15年のラグビーブーム

この日の登壇者は日本テレビ・渡辺氏(左)とJ SPORTS・大谷氏 【スポーツナビ】

 いよいよ9月20日の開幕が迫ってきたラグビーワールドカップ(W杯)日本大会。放送権を獲得したNHK、日本テレビ、J SPORTSの3局のうち、民放2局から担当プロデューサーが登壇した。

 日本テレビの渡辺氏は11年大会でディレクター、15年大会ではプロデューサーを務めており、W杯に携わるのはこれで3大会連続。なかなか想像のつかない“プロデューサー”というポジションを「放送の材料を全部そろえ、何かあった時に責任を取る人」と説明する。J SPORTSの大谷氏はプロデューサー職の傍ら、早稲田実業高のヘッドコーチも務める異色の肩書きの持ち主。就任5年目の昨冬には母校を82年ぶりの花園出場に導き話題になった。

 前回15年大会・南アフリカ戦での大金星の瞬間を現地で立ち会った渡辺氏は、その後に沸き起こったラグビーブームを数値でまざまざ体感した一人。当時をこう振り返る。

「それまでのW杯って、例えば11年大会のフランス戦の平均視聴率は約3.5%でした。ところがあの南アフリカ戦は、(生放送の権利がなく)翌日の録画放送になったんですが、それでも5%くらい取ったんですよ。結果を知っている試合で、しかも日曜のお昼でこの数字は、メジャースポーツと言っていいくらい。『ラグビーがこんなにグングンきているのか』とビビリましたね」

 続くスコットランド戦からは日本テレビに生放送の権利があり、視聴率も14.6%を叩き出したものの、日本は10-45で大敗。「ここで勝つのが一番のプロモーションになる、というところで負けてしまった。次の試合はちょっと厳しい、二桁どうにか乗ってくれれば……」と案じた渡辺氏だったが、ブームは去らなかった。

「(第3戦の)サモア戦の中継翌日に帰国しなければならず、会社に到着した時間がちょうど視聴率の出るタイミングだったんです。そしたら着いた瞬間に編成の人が走ってきて『おめでとう!』と。19.3%でした。もう、ラグビーでは見たことのない数字ですね」

 視聴者数に直すと約2500万人で、国際統括機関であるワールドラグビーは、「1カ国内における視聴者数のW杯記録」と発表。あのラグビーブームはそれほど大きなものだった。

1試合にテレビカメラ32台を投入、トップリーグは5台

 今年も盛り上がりが期待されるラグビーW杯日本大会だけに、テレビ局は万全の体制で生中継に臨む。

 J SPORTSでは「ラグビーの本質を伝える」ことをテーマに、全48試合を4Kで生放送。日本テレビ、NHKも担う国際映像作成には1試合につき32台ものテレビカメラが投入される。さらにスローリプレイ用のカメラ、注目選手の表情を追う専属カメラなどを各局が独自に配置するため、試合によっては40台を超えるケースも想定される。「トップリーグは5台が標準で、多いときでも8台」(大谷氏)というから、その規模の大きさが分かる。

「われわれはスポーツ専門チャンネルなので、『ラグビーを好きになってより詳しく見たい』という方々に向けて、余すことなく全試合お届けしたい。またW杯は過去の歴史から見ても、その時その時のラグビーの最先端が披露される場。そのトレンドをしっかりお伝えしたいですね」と大谷氏は意気込む。

 対して渡辺氏は日本テレビが掲げる目標についてこう語る。

「今大会は19試合を地上波で生放送させていただくのですが、もちろん前回より視聴率をしっかり取りたい、というのがまず一つ。またライツホルダーという責任ある立場でもあるので、スタジアムを全部満員にしたい。『放送さえ見てくれればいい』ではなく、大会全体を成功させることが責任だ、というのが二つ目。

 一番大きいのは三つ目で、『ラグビーコンテンツをその後の財産に、文化に』と。W杯日本大会はもちろん成功してほしいし、成功すると思うんですけれど、やはりここがスタート。ビジネス的に、20年の東京五輪や23年の次回W杯、それ以降のラグビーでしっかり成り立つようにしたいんですよね。

 ラグビー選手やラグビー解説者が一つの大きな仕事になったりだとか、要はメジャースポーツの仲間入りをさせなければ、自国開催のW杯を成功とは言えないのではないかなと。ここをどうやっていくかというのがすごく大きな目標の一つです」

日本テレビ、W杯を盛り上げる「4つのポリシー」

W杯を契機にラグビーをメジャースポーツにしたいと語る渡辺氏 【スポーツナビ】

 目標達成への行動を日本テレビは「4つのポリシー」に落とし込んでいると渡辺氏は言う。

1.「がんばれニッポン」で盛り上げる
2.「世界の超一流チーム・超一流アスリート」を楽しむ
3.ラグビーの「競技としての面白さ」を伝えていく
4.「日本開催」ゆえの舞台裏に光を当てる

「全部のものを同じ比重でやらなければいけないのですが、一つ目は当たり前なんですけども、一番広く受け入れられやすい『がんばれニッポン』で盛り上げる。

 二つ目は、日本戦は決勝トーナメントに勝ち進んでも3試合+αしか放送できないわけですから、海外勢同士の試合をどれだけ楽しんでもらえるかというのが勝負だなと思っています。

 三つ目は、地上波では今まで逃げてきてしまった部分も多いなという自戒の念も含めてですが、競技としての面白さも伝えていかなければならないと。『ラグビーってちょっと難しい』と言われることが多いのですが、どこが面白いのかという細部まで中継の中でちゃんと伝えたいですね。

 例えば『ブレイクダウン(タックル成立後のボール争奪戦)の時はどこを見たら面白いのか』とか『このキックの何がすごいのか』といったところは、比較的言ってこなかった。あえてやってこなかった部分もあるのですが、今大会ここは逃げちゃだめだと。

 スクラムの時に陣形まで見ると――といった部分までちゃんとラグビーの面白さを伝えなければいけないと思っています。あとはもちろん自国開催の舞台裏にちゃんと光を当てることができれば、より興味を持って見ていただけるのではないでしょうか」

「02年サッカーW杯のようなお祭りにしたい」

J SPORTSは全48試合を4Kで生放送する 【スポーツナビ】

 両局とも本大会へそれぞれの準備に余念がないが、NHKを含め3局合同で進めているのがプロモーションのための「カウントダウンPR企画」だ。他競技の選手や芸能人といった著名人にコメントをもらい、開幕100日前から日替わりで公開しカウントダウンしていくというものだが、その動画素材の撮影を共同で行っているのだという。渡辺氏はその裏側を「自分たちの守備範囲でやっていても広がっていかないので、何かしらの話題作りだとかそういうことも含めてご一緒にできないかなと。カウントダウンPRでは、J SPORTSさんとNHKさんに『一緒にやりませんか?』とお声がけしたところご賛同いただいて、(撮れたものを)共有しながらコンテンツを展開しています」と明かした。
 最後に、両者からいよいよ目前に迫ってきた日本大会への思いが語られた。

「本当にお祭りにしたいですね。02年のサッカーW杯がすごくいい例だと思うんですけれど、大会前は注目されていなかったカメルーン代表が、いろいろなトラブルでキャンプ地の中津江村に登場しない……というだけですごく盛り上がったんです。実はカメルーン戦って02年の時に視聴率20%を超えていて、対ドイツ戦では30.8%も取っているんですよ。カメルーン戦でこれだけの数字が出ることは多分金輪際ない(笑)。日本戦だけ高かったわけではなくて、ベッカムがいたイングランドもアルゼンチン戦で40%超えている。すごいですよね。

 居酒屋でサラリーマンが『ジェイミー(HC)メンバー違うよ、俺だったら誰々をセンターに選ぶね』とか、町のおばちゃんが「石橋拓也すごいじゃない」みたいに言うぐらい、お祭り騒ぎにしたいというのが一番の願いです。

 視聴率の目標は35%。これは、今年弊社の番組でもある箱根駅伝が、30%超えで歴代1位の視聴率を取ったんです。大坂なおみ選手が出場した全豪テニス決勝は32%。これを超えて、ラグビーW杯が今年ナンバーワンスポーツなんですと言わないといけない。皆さんのご協力をぜひお願いできればと思います」(渡辺氏)

「日テレさんには50%取ってもらって(笑)、ラグビーを好きになってもらって、もっと深く観ようとなった方にJ SPORTSに入ってもらえるよう、うちも頑張りたいです。

 やっぱり、ラグビーの文化を知っていただきたいと思いますね。敵と味方のサポーターが試合前からずっと酒を飲んで、終わった後もずっと酒を飲んで称えあう。ラグビーを知っている方は当たり前な光景かもしれないですが、他競技では考えられないスタジアムの雰囲気が日本で繰り広げられるはずです。

 せっかくの自国開催で興味を持った方が、ちょっとでもラグビーをもっと観ようとなってくれれば。『ラグビーってすごくいいスポーツだな』というのを知っていただきたいなと思いますね」(大谷氏)

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