13年夏Vの前橋育英・荒井直樹監督が語る エースに投げさせ続けることへの思い

松尾祐希

「うちは200球以上の投げ込みはさせない」

優勝した13年は高橋光成が全6試合687球を投げたが「今考えれば、無理をさせましたね」と荒井監督 【写真:岡沢克郎/アフロ】

――優勝された13年は、控えの喜多川省吾選手が5イニングを投げましたが、高橋光成選手が一人で全6試合687球を投げました。エースに託した理由を教えてください。

 初戦と2回戦が1−0で、3回戦は横浜高校に7−1で勝ちました。僕はそれぐらい点差が離れると、投手を代えることが多かったんです。でも、僕は神奈川出身なので横浜の怖さを知っている。9回でも5点差をひっくり返す底力を持っているので、僕は高橋をなかなか代えられなかったんです。

 次が翌日に準々決勝だったのですが、これ以上投げさせれば壊れてしまうと感じ、喜多川を先発させました。結果は5回で2失点だったんですが、うちは無得点。そこで6回から高橋に代えたのですが、その日が一番良かったんです。だから、延長10回までいったんですけれど、5回で10三振。ビハインドで投げたので僕が流れを作りたいという気持ちもあったのかもしれません。高橋の好投もあって、チームは10回にサヨナラ勝ち。準々決勝で5回を投げた高橋は中1日で完投したのですが、準決勝の日大山形戦もボールが走っていなくて、初回に1アウト満塁のピンチがあったんです。でも、セカンドがファインプレーを見せて、ダブルプレー。そこで流れが止まって、4−1で勝ちました。

 ただ、次の日の決勝はヘロヘロ。高橋に途中で「状態はどうだ?」って聞いたら、下半身に力が入りませんと言ってきた。なので、「代わるか」と聞いたのですが、「まだいきます」と。そして、追いつくとスイッチが入って、最後まで投げたんです。やっぱり、きつかったと思います。あの時は投げさせましたけれど、今考えれば、無理をさせましたね。

――球数制限をしても、どれだけ投げても、一人ひとり状態は違います。そういう意味ではトレーナーの存在はどのように考えていらっしゃいますか?

 うちは系列校の育英メディカル専門学校があって、鍼灸とかも扱う接骨院があるんです。甲子園ではそのトレーナーに来てもらい、普段は何かあれば見てもらう形にしています。ただ、そもそもうちはまず練習であまり投げさせないんです。バッティング投手で投げさせて感覚を養わせる形にして、200球以上の投げ込みはさせない。逆に僕は選手と普段から話して、状況が悪いのであれば、投げさせないようにしています

――最初からあまり投げさせない方針でやられていたんですか?

 そうですね。投げ込みはさせない。そのかわり、トレーニングはしっかりやらせます。コーチが専門的にできるので、投手はピッチング以外のメニューをやらせるんです。インナーマッスルとか股関節を鍛えると、自然に投球フォームが良くなっていく。投手が投げるようなイメージのトレーニングをやっているので、自然と土台ができるんです。なので、投球以外はがっつりやりますね。あとは遠投ですよね。40メートルぐらいの距離で綺麗な回転で投げられると結果的に良いフォームになっているんです。

「今の子供は頭が良い」

前橋育英では「練習であまり投げさせない」方針で指導を行っているという 【松尾祐希】

――身体の負担を減らすためにさまざまな工夫をされていますが、熱中症や肘と肩の負傷を減らすためには選手の状況を一番知っておく必要もあります。選手との向き合い方はどのようにされていますか?

 今の子供は頭が良い。なので、そういう意味では彼らはやれる。僕らの頃はいかにサボるかだった(笑)。水も飲めないので、草むらに隠して飲んでいましたから(笑)。中には今の奴は根性がないと言う人もいるかもしれないけれど、僕らも上の人たちから「今の若い者はダメだ」と言われていた。だから、それを言えば、僕の負けだなと思うんです。

 選手たちから学べるものがある。そのスタンスで向き合うと、結構いい関係ができるんです。なので、僕は絶対に部員と一人1回は毎日話すようにしています。結局、大事なのは1対1の会話。1対52で話しても聞いていない場合がほとんどで、一人ひとりで話せば、自分と選手だけの空間ができる。一人ひとりと話したり、野球ノートでやりとりをしていると、だんだんとお互いの心内が分かってくるんです。野球ノートも1週間に1回やれば、2年間で100回になる。100回僕は選手にラブレターを出している。帰ってこないラブレターになる時もありますけれど、いろいろな思いが伝わってきますし、彼らの考えも分かってくる。

――となると、それだけコミュニケーションを取れば、選手が監督に体調が悪いとかを言いにくいというのはなさそうですよね。

 そうですね。けがをしている選手には毎日聞きますね。

――ここまでは選手の目線で話をうかがいましたが、甲子園の大会日程についてはどのように感じられていますか? 元読売ジャイアンツの大野倫さんは1日5試合やれば、1、2回戦の日程を詰められるので、会期を伸ばさなくても休養日を増やせるとお話しされていました。

 なるほど。8時からスタートしても、1試合2時間半で8時過ぎには終わりますね。確かに1日5試合はいいかもしれないですね。滞在期間が短くなって、そんなに応援の負担にもなりませんし。

――1、2回戦は早く消化できるので、滞在期間も短くなります。

 休養日を増やすとなれば、日程を長くするイメージがあったんですけれど、そういう考えもあるんだなと。それは良い案ですよね。

――甲子園以外の会場を使えないので早く消化はできないですけれど、それならなんとかできますよね。

 そうですよね。2時間半で5試合であれば、できるはずです。あとは日陰を多くするために内野あたりの屋根を大きくすれば良いのかなと。雨の影響も少なくなります。グラウンドに土を戻す作業が大変なのも見てきましたし。

――そうやってカバーもできますよね。もっと工夫をすればもっと良くなりますよね。

 高野連がたたかれることもありますけれど、みんな頑張っています。その中で知恵を絞ってやれば、もっと良くなると思います。

荒井直樹

1964年8月16日生まれ。高校時代は日大藤沢高で投手として活躍。1年後輩で元中日ドラゴンズの山本昌と2枚看板を形成した。卒業後は社会人野球の名門・いすゞ自動車に進み、引退後は指導者の道へ。1996年から98年まで母校で監督を務め、99年から前橋育英でコーチを務め、2001年から現職に。

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著者プロフィール

1987年、福岡県生まれ。幼稚園から中学までサッカー部に所属。その後、高校サッカーの名門東福岡高校へ進学するも、高校時代は書道部に在籍する。大学時代はADとしてラジオ局のアルバイトに勤しむ。卒業後はサッカー専門誌『エルゴラッソ』のジェフ千葉担当や『サッカーダイジェスト』の編集部に籍を置き、2019年6月からフリーランスに。現在は育成年代や世代別代表を中心に取材を続けている。

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