ラグビー日本代表・稲垣啓太が語る手応え 「今までで一番、成長を感じた」

斉藤健仁

ワールドカップを前にフィジー、トンガを撃破

日本代表の背番号「1番」としてチームを引っ張っている稲垣啓太 【斉藤健仁】

 身長186cm、体重116kg。ただでさえ大きな「1番」の背中は、本番の足音が近づくにつれて信頼感が増している。

 ジェイミー・ジャパンになってから初めて格上に勝利した7月27日のフィジー代表(世界ランキング9位、34対21)戦に続き、ラグビー日本代表(同11位)は8月3日、大阪・東大阪市花園ラグビー場で、ワールドカップの前哨戦となるパシフィック・ネーションズ(PNC)の第2戦でトンガ代表(同14位)と対戦した。

 フィジカルと重さで上回るトンガ代表に対し、日本代表はモールを起点に先制トライを挙げてリズムをつかむ。さらに6〜7月にかけて33日間の宮崎合宿で鍛えてきたフィジカルとフィットネス、そして2人で相手の上半身にタックルしモメンタム(勢い)を奪う「ダブルショルダー」も機能、5トライを挙げて41対7で快勝した。
 対戦成績を9勝9敗の五分とするだけでなく、34点差での勝利は過去の対戦成績の中では最多だった。

リーダーグループの一員である稲垣啓太

リーチ マイケル主将(右)とともにリーダーグループを構成している 【斉藤健仁】

 FLリーチ マイケル主将を中心にした9人のリーダーグループの一員で、ディフェンスを担当するPR稲垣啓太は「(新ルール下で)僕らがやっているスクラムが機能している実感はあった。またモールからトライを奪われなかったという意味では前回の課題をクリアできたのでは。ディフェンスは機能しているときは非常に良かったですし、ターンオーバーもできた。フィジカルという部分でトンガを上回った部分もあった」と冷静に振り返った。

 また、日本代表は3年前のウェールズ代表と善戦した後のフィジー代表戦(25対38)、昨年6月の連戦だったイタリア代表の2戦目(22対25)、昨年11月のイングランド代表に善戦した後のロシア代表戦(32対27)など、いい試合をした次の試合は調子が悪い傾向にあった。だが、今回のトンガ代表戦では、そのジンクスも見事に払拭した。

 やはり「いい内容の試合の後、次の試合が悪い」とコーチ陣に言われていたという。稲垣は「そう言われるのは、僕ら選手としてはストレスだった。(リーダーグループの中ではそれを)言われないようにしようと声が上がっていた。いい試合を続ける実力があると理解していたのですが、どう試合でパフォーマンスを発揮するか。そういった部分でマインドセットが良かった」と胸を張った。

「選手自身がやるべきことを100%理解している」

選手のゲーム理解度が高まっていることに手応えを感じている 【斉藤健仁】

 試合に臨むメンタル部分の向上だけでなく、稲垣はトンガ代表戦の勝利を「今までの日本代表戦の中で一番、成長を感じた。選手みんなもそう」と言い切った。

 トンガ代表戦の前日、母親が急逝したためジェイミー・ジョセフHCが不在だった。週のはじめこそ、コーチ陣にゲームプランを提示されるが、週の後半には「選手自身がやるべきことを100%理解しているのでコーチ陣は何も言うことはない。試合に入っても選手自身が今、何をやらないといけないか瞬時の判断ができますし、ハーフタイムに入った瞬間も課題は明確になっていた。(ジョセフHCの)不在の影響はなかった。選手の自主性、成長が見えた」(PR稲垣)

 トンガ代表がタックルでスマッシュし接点にプレッシャーをかけてきたこと、2人目の寄りが遅くなっていたことは、すでにハーフタイムに選手たちから声が出ていたという。また、この試合はキックを多くしてゲームインプレーを増やす戦略だったが、相手のラインアウトにプレッシャーをかけることができていたため、試合途中で変更し、しっかりとタッチに蹴り出す回数を増やしたことも功を奏した。

 リーダーグループを中心に、置かれている状況、試合の流れなどを感じて、修正、変更を加えて戦っていたというわけだ。それができたのは、ひとえに準備を選手主導で行っているからに他ならない。

 稲垣は「フィジー代表、トンガ代表に対して、しっかり圧倒して、終始ゲームをコントロールして勝ち切れた。特にトンガ代表戦では試合の流れの中で、ミスが続いてグダった時もありましたが、そこから立て直して41対7という差で勝つことできた。地力がついた」と言うように、ワールドカップを控えてチームにとって大きな自信となった連勝だった。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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