160キロ右腕にセンバツVの大砲も…夏の甲子園に届かなかった逸材たち

西尾典文

完成度の高さ、素材型…その他の右腕たち

日大三・井上は救援での2登板のみと、不完全燃焼の夏に(写真は2018年夏の甲子園でのもの) 【写真は共同】

 他にも地方大会で姿を消した好投手は非常に多い。

 右腕では井上広輝(西東京・日大三)、横山陸人(千葉・専大松戸)、岡林勇希(三重・菰野)、上田大河(大阪・大商大高)、藤本竜輝(兵庫・社)、落合秀市(和歌山・和歌山東)、河野佳(広島・広陵)、谷岡楓太(広島・武田)、下村海翔(福岡・九州国際大付)、浅田将汰(熊本・有明)などの名前が挙がる。

 完成度の高さでは井上、上田、下村の3人が筆頭だ。

 井上はこの夏はリリーフ登板の2試合で不完全燃焼に終わったが、バランス良く下半身主導で投げられるフォームは安定感十分。好調時は150キロ近いスピードもマークする。上田は力みのないゆったりとしたフォームが持ち味で、春の大阪府大会を制した総合力は本物。夏は2試合連続で二桁奪三振を記録するも、一発に泣いた。下村は左肩が開かない、出どころの見づらいフォームが特長。もともとまとまりのあるタイプだったところに、今年に入ってからは140キロ台後半をマークするようになり、プロからの評価も上がっている。

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 素材型では落合と浅田が面白い。

 落合は投げる以外のプレーはまだまだ緩慢で、一本調子になって打ち込まれることもあるが、たくましい体格から投げ込むストレートはコンスタントに145キロ前後をマーク。この春から夏にかけて急浮上し、多くのスカウト陣が視察に訪れた。浅田は昨年から九州ナンバーワンと呼び声の高い本格派。一冬超えて体つきが明らかに大きくなり、安定感も大きくアップ。少し右肩の下がるフォームだが、角度のあるストレートと鋭く縦に変化するスライダー、チェンジアップのコンビネーションで奪三振率も高い。

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今夏、大きく評価を上げた左腕は?

 サウスポーでは宮城大弥(沖縄・興南)、石沢大和(北北海道・網走南ヶ丘)、井上温大(群馬・前橋商)、玉村昇悟(福井・丹生)などが地方大会で敗れた。

 なかでも、及川と並んで左腕で上位候補と見られているのが宮城だ。

 173センチと投手としては小柄だが、体の強さやバネは抜群。鋭く体を回転させて投げ込むストレートは、140キロ台後半をマークする。サウスポーらしいボールの角度があり、カーブ、スライダー、チェンジアップの精度の高さも申し分ない。沖縄大会の決勝戦で229球を投げたことによる体へのダメージが心配だが、リリーフであれば1年目から一軍の戦力となってもおかしくはない。

 井上と玉村はともに決勝で敗れて甲子園を逃したが、この夏大きく評価を上げた。井上は『美しい』と形容したくなるような伸びやかなフォームが特徴。スピードは140キロ前後だが、まだまだ速くなりそうな雰囲気がある。玉村も肩の可動域が広い豪快な腕の振りで、ストレートで勝負できるのが持ち味。こちらも細身なだけに、体ができてからのスケールアップに期待だ。

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野手でスカウトをうならせたのは?

センバツで東邦を優勝に導いた石川(写真左)は初戦でいきなり一発を放つも、チームは2回戦で姿を消した(写真はセンバツでのもの) 【写真は共同】

 野手は投手に比べると有力候補が少ない印象は否めない。

 そんななか、最大の注目選手でセンバツを制した東邦(愛知)の主砲・石川昂弥は2回戦で姿を消したものの、初戦にいきなり右中間へ一発を放って存在感を示した。踏み込みの弱さと強く引っ張りきれないのは課題だが、リストの強さとサードから見せる強肩は大きな魅力だ。

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 同じ右の大砲候補では菊田拡和(茨城・常総学院)と紅林弘太郎(静岡・駿河総合)の評価が高い。

 菊田はタイミングの取り方が単調でバットの動きも大きく、まだまだもろさはあるものの、捉えた時の打球の勢いや飛距離は間違いなく超高校級。この夏の茨城大会でも打った瞬間それと分かる特大の一発を放ち、スタンドのスカウト陣をうならせた。

 紅林も粗さはあるものの、堂々とした体格を生かしたパワフルなスイングが持ち味。この夏は厳しいマークにあいながらもしっかりボールを選び、チームの勝利に貢献していた。フットワークはもうひとつだが、ショートから見せる強肩も魅力だ。

 三拍子そろったタイプでは森敬斗(神奈川・桐蔭学園)、上野響平(京都・京都国際)、川野涼多(熊本・九州学院)の3人のショートに注目が集まった。

 森は左方向にも鋭い打球を放つバッティング、上野は広い守備範囲、川野はスイッチヒッターで両打席からのシュアな打撃が目立った。それぞれ持ち味は異なるが、若手の内野手が不足するチームにとっては魅力的な人材だろう。

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 予想以上に多くの選手が地方大会で姿を消したが、これまでも最後の夏の悔しさをバネに次のステージで大きく飛躍した選手は少なくない。直接のプロ入りか、それとも進学や社会人入りを選ぶのか。進路はそれぞれ分かれるものの、最後にはプロの舞台で大きく飛躍した姿が見られることを期待したい。

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著者プロフィール

1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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