糖質制限がマラソンに役立つ可能性はあるのか?

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【写真:アフロ】

この記事では糖質制限の食事がマラソンやトライアスロンなどの持久系スポーツのパフォーマンスアップに役立つ可能性について考えたいと思います。

先に結論を言いますと、私は競技時間が8〜36時間くらいに及ぶ超持久系スポーツにおいては糖質制限が役立つ可能性が高いのではないかという仮説をもっています。

私は24時間走という競技をメインに走っている市民ランナーです。24時間走とは1周が400m〜2kmくらいの周回コースをぐるぐる周り、24時間でどれだけ長い距離を走れたかを競う競技です。

2007年から大学のジョギングサークルに入ったのをきっかけにランニングを始めました。ウルトラマラソンを完走した先輩が「カッコいい」と思って、大学2年生の時には初100kmを完走。ウルトラマラソンの魅力にとりつかれて走ってばかりの学生時代を過ごしていました。

2012年には神宮外苑24時間チャレンジという大会で256.861kmの記録(世界ランキング6位)をだして、運良く日本代表選手として2013年の世界選手権に出場することができました。

24時間走はエネルギー消費が膨大なので、エネルギー補給による胃腸障害がネックとなる

24時間走の競技特性として「膨大なエネルギーの消費」があります。よくランニングで消費するエネルギーを簡単に計算するときに体重[kg]×距離[km]が使われます。例えば体重53kgの私が250km走るなら53×250=13,250kcalくらいのエネルギーを消費すると考えられます。一日の成人男性の食事量が約2000kcalとすると、1週間分の食事量に匹敵するようなエネルギー量です。

この13,250kcalものエネルギーをどこからもってくるのか?
私たちの体は糖質と脂肪の2つを主なエネルギーとして利用しています。
脂肪の方は痩せ型の私(体重53kg体脂肪率10%)でも38,000kcalくらいと十分な量があります。
一方で糖質の方は1,300kcalくらいと少ないです。

運動中は糖質と脂肪の両方が使われますので、量が少ない糖質は枯渇してしまいます。よって、その不足分をレース中に食べながら走ることで補おうとするわけです。しかし、運動しながら消化吸収することの体へのストレスは大きく、途中で胃腸障害が起きるなどして十分な補給ができることはほとんどありません。多くのベテランウルトラランナーは「いかに食べ続けられるか」が結果を大きく左右することを知っています。

世界的ウルトラランナー石川佳彦選手の影響で半信半疑のまま糖質制限を開始

さて、マラソンに限った話ではありませんが、成功するための優れた方法の1つに「すでに上手くやっている人のマネをする」ということがあります。2017年秋頃、あまりランニングの調子の良くなかった私は「何とかこのスランプを脱したい」と思っていました。そのときに運良く世界トップレベルのウルトラランナー石川佳彦選手とお話しする機会がありました。石川選手は2017年24時間走世界選手権で優勝、2018年スパルタスロン優勝という素晴らしい実績があります。

石川選手と話していたところ、彼が糖質制限をずっと継続していたことを思い出しました。
*「思い出した」というのは、以前から彼が糖質制限をしていることを聞いていたからです

以前その話を聞いたときは気にもかけないというか、「石川選手も糖質をもっと摂れば更に強くなれるのでは?」と勝手に自分のそれまでの知識で解釈していました。従来のスポーツ栄養関係の知識では糖質は貴重なエネルギー源としてきちんと食べた方が良いというのが常識でしたから。

しかし、スランプから脱したいという気持ちの私には「もしかしたら自分も糖質制限したら変われるのではないか?」という思いが芽生えてきました。そして、2017年10月から半信半疑のまま糖質制限を実験的にスタートしました。

1日の糖質摂取量は50〜60g以下に抑えるようにしました。糖質は減らしても他の栄養素は不足しないように注意しました。お肉(脂っこいのもOK)を毎日400g。食物繊維にキャベツサラダ、ナッツ、納豆、もずくなど。ビタミン・ミネラルはサプリも使用しています。

変化していく体に期待感が増していく

最初のころは糖質が不足することによってパフォーマンスが低下しました。「これで本当にあっているんだろうか?」と不安になりながらも情報を収集しながら辛抱強く継続しました。すると、不思議なことに体がどんどん慣れてきて、ジョギングの距離は増え、スピード練習もできるようになり、体の回復力も高まっていきました。自分の体が変化するのが楽しく、「これはいけるんじゃないか!」という手応え、期待感もどんどん湧いてきました。

糖質制限の有効性を示す証拠がドンドン見つかっていく

情報収集をしているうちに、糖質制限が既に持久系スポーツで成果を上げているということを知ります。なんと24時間走世界選手権の男子優勝選手は2012〜2017年の4大会中3人が糖質制限の実践者だったのです。

糖質制限がなぜマラソンに良いのかについての理論的な研究もされていることを知りました。糖質制限をすることで脂肪をエネルギーとして使える比率が高くなり、その結果糖質をレース中に補給する量を減らすことができるのです。これは補給がネックとなるウルトラマラソンではとても大きな違いです。

従来の研究成果との矛盾(?)をどう考えるか

私がそれまで参考にしてきた従来の研究成果は糖質制限に適応するまでの期間が十分ではなかったことが、この矛盾するような結果の理由だと思います。つまり、2ヶ月程度糖質制限をしても逆にパフォーマンスは下がってしまう(このパフォーマンスを何で測るかにもよりますが)。しかし、半年以上糖質制限を継続したような集団ならパフォーマンスが向上することも十分にありうると。

24時間で255kmを快走。世界10位に返り咲く

私は2017年10月から「なんとかスランプを脱して、またライバル達と競い合いたい。マラソンに没頭して楽しみたい。」と思い糖質制限を継続しました。途中で不安になったり、誘惑にかられそうになったり、「間違っている」と非難されたりと困難なこともたくさんありました。しかし、なんとか継続して迎えた2018年11月の神宮外苑24時間チャレンジ。255.279kmを走り同年の世界ランキング10位を獲得。これまで13回24時間走を走りましたが、一番楽に走りきることができました。「24時間走、攻略したぞ」という感じ。

まとめ|糖質制限はどの範囲で有効なのだろうか?

話をまとめると、自分自身の体験、他のウルトラランナーの実績、理論的な根拠とあわせて判断するに、私は糖質制限がある条件下ではスポーツパフォーマンスの向上に役立つと考えています。
その条件はわかりませんが、色々な人の体験談から察するに競技時間が8〜36時間くらいなら糖質制限が有利に働くことがあるのかなと。市民ランナーの方の100km以上のウルトラマラソンや、トライアスロンのアイアンマンなどは糖質制限を試してみる価値が十分にあると思います。

石川選手はフルマラソンでも糖質制限で体力を後半まで温存できて手応えを感じると言っていました。

注意点としては、糖質制限に挑戦しても失敗して終わってしまう人も大勢いることです。これがやり方の問題なのか、体質的に合わない人がいるのかはわかりません。ただ、糖質を減らすだけと勘違いして他の重要な栄養が不足してしまうケースなど、よくある失敗は知識不足に原因があることも多いと思います。チャレンジする方は少なくとも一冊くらいは糖質制限に関する本を読んでおくことをおすすめします。

私は色々と読みましたが、例えば下記の本は理論的で参考になりました。
一度きりの人生、「自分の可能性にチャレンジしたい」という方は糖質制限という選択肢もあることを心に留めていただければと思います。

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【著者プロフィール】
小谷 修平(オダニ シュウヘイ)
・経歴
愛知県出身。東海高校→東大→東大大学院と学び、フィットネスクラブに三年間勤務。
起業してRunning Shop Holosを創業。市民ランナーを対象とした商品開発・販売やセミナーによる情報提供を仕事にしている。
・実績
◆2012年24時間走 世界ランキング6位(256.861km)
◆2013年24時間走 世界選手権日本代表(団体戦準優勝、個人7位)
◆2018年24時間走 世界ランキング10位(255.279km)
体の知識を活かして月間350kmくらいの練習で24時間走で250km走るのが特技。
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著者プロフィール

習慣的にスポーツをしている人やスポーツを始めようと思っている20代後半から40代前半のビジネスパーソンをメインターゲットに、スポーツを“気軽に、楽しく、続ける”ためのきっかけづくりとなる、魅力的なコンテンツを提供していきます。

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