コパ・アメリカ2019連載

森保Jに「強化の連続性」はあったか? コパで再確認した“ジャパンズ・ウェイ”

宇都宮徹壱

森保監督の「コンセプト」とは何だったのか?

森保監督のコンセプトは「ジャパンズ・ウェイ」の延長線上にある 【写真:ロイター/アフロ】

 先に挙げた7つのチェック項目のうち、今回のアンケートに選んだ4つの項目は、いずれも「森保監督がどんなサッカーを志向しているのか」に関連したものである。今大会を総括するにあたっては、まずはそのコンセプトを整理する必要があるだろう。ヒントとなるのが、これまでの会見で森保監督が残してきたコメント。メディアの前では本音を語ることが少ない指揮官だが、自身が目指すサッカーについては比較的オープンに話している。その内容をまとめると、以下のとおり。

・攻守共に選手がほどよい距離感を保ち、周囲がすぐにカバーリングやサポートができるようにすること。
・攻撃時には守備を、守備時には攻撃を、常に意識しながらプレーすることで、攻守が切り替わったときに瞬時に対応すること。
・攻撃面では、日本人選手が本来持っている技術の高さと献身性を生かしながら、連係連動して局面を崩すこと。それが難しい場合は、個の力による打開を目指すこと。
・守備面では、球際でしっかり勝負すること。相手に攻め立てられる場面でも、身体を張って最後まで諦めずに対応すること。
・想定外の事態が発生した場合は、ピッチ内の選手の判断を尊重すること。
・以上のコンセプトは、3バックでも4バックでも基本的には変わらない。

 こうして列挙してみると、難しいことは何ひとつ言っていないことに気付くはずだ。もちろん、攻守の組み合わせや相手との力関係によって、追加的な約束事はあるだろう。それでも大枠では、上記したコンセプトから大きく逸脱することはない。そして(森保監督自身がどこまで自覚的かは不明だが)、現在の日本代表のサッカーはJFA(日本サッカー協会)が2006年から提唱してきた「ジャパンズ・ウェイ」──すなわち日本本来の強みや日本らしさを前面に打ち出したスタイルとも合致している。

 今回のコパ・アメリカで、森保監督が結果以外に求めたものは、単に「五輪世代の若い選手を試すこと」だけだったのだろうか。むしろ日本サッカー界がこれまで積み上げてきた「ジャパンズ・ウェイ」、そしてその延長線上にある森保監督自身のコンセプトが南米勢とのアウェー戦でどこまで通用するかについても、実は試しておきたかったのではないだろうか。それは初戦のチリに0−4と粉砕されても、その後はメンバーを替えただけで戦い方は変えなかったことを思えば、あながち間違った見立てとも思えない。

世界を肌で知るラストチャンスだったコパ・アメリカ

コパ・アメリカは、日本が次のW杯までに世界を肌で知るラストチャンスだった 【写真:ロイター/アフロ】

 思えばコパ・アメリカへの出場は、森保監督自身が強く望んだことだと伝えられる(自身も会見でそう発言している)。これまでアジアカップを除けば、代表の強化試合はいずれも国内でのキリンチャレンジカップばかり。もちろん興行そのものを否定するつもりはないし、それが各年代強化の重要な資金源となっているという事情も理解している。しかし一方で、長旅でヘロヘロになった南米や北中米カリブの国々とホームで対戦して、どれだけ強化につながるのかという疑問は常に付きまとう。

 だからこそ日本は、コパ・アメリカに参加すべきであったし、南米での真剣勝負を通して多くの教訓を得ることができたとも思う。今後の日本サッカー界は、男女共に来年の東京五輪へと向かっていくが、祭典が終われば強化の機会がないままW杯最終予選に突入していく。次回のコパ・アメリカは来年2020年に開催されるが、すでにアジアからの招待枠はカタールとオーストラリアに決定。つまり今大会は、日本が次のW杯までに世界を肌で知る、文字通りラストチャンスだったわけである。

 最後に、あらためて今大会の日本代表を7つのチェック項目で評価しておこう。「各ポジションの世代交代は進んでいるか?」は、間違いなく進んでいる。ただし「チーム内の競争は健全に働いているか?」については、今後のW杯予選で見極める必要がある。「監督の考えるコンセプトは浸透しているか?」は、メンバーが変わっても大きな破綻が見られなかったので、浸透していると言えるだろう。ここまではチームマネジメントに属するものであり、そこだけ考えるなら満足できる進捗と言えるだろう。

 一方で「攻撃面でのバリエーションは増えているか?」と「守備面での共通理解は進んでいるか?」は、どちらもクエスチョンマーク。「監督の采配や選手交代は的確か?」についても効果的だったと言い難いし、「試合状況や実力差に応じた戦いができているか?」はウルグアイ戦のみ及第点だったと考える。もっとも、現時点ですべてがパーフェクトである必要はない。それに森保監督は、まだまだ伸びしろのある指導者だと私は信じている(おそらくJFAもそこの部分を期待しているのであろう)。

 今大会での経験を経て、選手のみならず指揮官がどう成長していくのか。むしろそこに、今後の楽しみを見いだしたいところだ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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