2冠達成も大混乱に陥ったバイエルン 自滅を招きかけた「選手>監督」という歪
選手の要求に指揮官、折れる
コバチが選手たちの要求をのむとチームは強さを取り戻し、7連覇を達成した 【写真:ロイター/アフロ】
コバチは選手たちの意を汲み、システムを「4−3−3」から「4−2−3−1」に変更。さらに、選手にチャンスを与えるためにローテーションを採用していたが、「スタメンをほぼ固定する」と宣言した。
デュッセルドルフ戦の3日後、チームはCLでベンフィカと対戦し5−1で完勝。キミッヒとゴレツカのダブルボランチが攻守を安定させ、ミュラーはトップ下の位置で動き回ってトリッキーな攻撃力を存分に発揮した。
結局、バイエルンが第13節以降に国内で負けたのは、第20節レバークーゼン戦のみ(1−3)。第27、31、33節で引き分けた以外はすべて勝利した。ライバルの失速によって首位の座を奪い、最終節でフランクフルトに5−1で完勝して7連覇を達成。この試合では今季限りで退団するリベリとアリエン・ロッベンが途中出場してそれぞれゴールを決め、優勝に華を添えた。
グアルディオラ(右)の薫陶を受けた選手たちは、コバチの戦術に物足りなさを感じている 【写真:ロイター/アフロ】
CL決勝T1回戦でリバプールと対戦すると、アウェーでの第1レグは0−0で乗り切ったが、ホームで迎えた第2レグは1−3で完敗だった。
試合後、レバンドフスキがコバチの戦術を批判した。
「2試合とも守備的に戦い過ぎた。深く引いて守り、リスクを負いたがらなかった。なぜか分からない。リスクを負わなかったから、僕らは敗退した」
コバチは攻撃の戦術とアイデアが乏しい――選手たちからそういう声が漏れ続けた。ジョゼップ・グアルディオラ時代の3年間、多くの選手が攻撃サッカーの薫陶を受けており、どうしてもペップと比べてしまうのだろう。
コバチの境遇に皇帝も同情
世代交代のはざまだった今季のバイエルン。コバチはもっと評価されるべきかもしれない 【写真:ロイター/アフロ】
コバチは監督に就任する際、フランクフルトのFWアンテ・レビッチと、ホッフェンハイムのDFケビン・フォクトの獲得を求めた。リベリとロッベンの突破力に衰えが見えることは昨季から分かっており、サイドで決定的な仕事をできる選手が必要だったからだ。また、フランクフルトで成功した3バックを採用するには、フォクトのようなリベロが不可欠だった。
ところがバイエルンの幹部たちはそれを拒否しただけでなく、フアン・ベルナトをパリSGに売却。コバチは3枚のSBのみ(キミッヒ、アラバ、ラフィーニャ)でシーズンを戦わなければならなかった。
そして、主力の年齢的な衰えも隠せなかった。
3月、ドイツ代表のヨアヒム・レーブ監督はバイエルンのクラブハウスを訪れ、ミュラー、フンメルス、ジェローム・ボアテングに対して、ドイツ代表の構想外になったことを告げた。ロシアW杯でグループステージ敗退を受け、世代交代に踏み切ったのである。
すでに書いたようにリベリとロッベンも全盛期を過ぎていた。12−13シーズンの3冠から6年。主力5人が衰えたら、CLで勝ち上がるのは簡単ではない。
サッカー界では力が衰え始めたベテランほど、マネジメント面で厄介な存在はないと言われている。5月、皇帝フランツ・ベッケンバウアーは同情した。
「バイエルンは甘えん坊の集団だ。こういうチームを率いるのは簡単ではない」
ヘーネスら幹部も世代交代が必要なことは分かっている。ようやく新世代への投資を決断し、アトレティコ・マドリーから移籍金8000万ユーロ(約98億円)でリュカ・エルナンデスを、シュツットガルトから移籍金3500万ユーロ(約43億円)でベンジャマン・パバールを獲得。ロシアW杯でフランス代表の優勝に貢献した2人によって、バイエルンのDFラインは一気に若返る。コバチ念願の3バックを組むことも十分に可能だ。また、ウイングの新戦力として、マンチェスター・シティのレロイ・サネの獲得もうわさされている。
リベリとロッベンが別れを告げ、J・ボアテングの移籍も濃厚になってきた。世代交代のはざまの苦しいシーズンに2冠を獲ったという点で、コバチはもっと評価されるべきかもしれない。
(文:木崎伸也)
※本記事(写真を除く)は『月刊フットボリスタ 第70号 18-19欧州総括特集』(ソル・メディア)からの転載です。