CL決勝でトッテナムに求められる「集中力」と「自己制御」

山中忍

前回対決の教訓を生かすなら「4−3−2−1」

前回対決では「4−3−2−1」へのシステム変更が功を奏した 【写真:ロイター/アフロ】

 チームとしての戦い方においては、「集中力」と「自己制御」も求められる。ケインが戦列に戻ったとしても、前線の威力では、モハメド・サラー、ロベルト・フィルミーノ、サディオ・マネの3FWが、国内外で合わせて68得点を記録しているリバプールの3トップが上手。より攻撃的な相手であるリバプールが後方に残すスペースをカウンターで迅速につく基本姿勢が妥当と思われる。先制点が重要であることは言うまでもないが、リバプールに先制を許さないことは、より大切だと言ってもよい。早い時間帯から追う展開を強いられて前掛かりになれば、それこそ相手の思うつぼだ。

 かといって、引き過ぎは禁物。この点は、前回対決に当たるプレミアリーグ第32節での教訓が生かされるはずだ。同節に5バックで臨んだトッテナムは、先制された前半に6割以上ボールを支配され、一方的な劣勢に立たされた。再現すべきは、「4−3−2−1」へのシステム変更が功を奏した後半のパフォーマンスだ。相手ボール時には、3センターの敵に対して中盤5名の数的優位でボール奪取に努め、いざマイボールとなれば、「2+1」の前線3名がそろって最終ラインの裏を果敢に狙ったトッテナムは、ボール支配率だけではなく、スコアの上でも、リバプールに追いつき、そして追い越せると思わせた。

 同様の戦法で、今季前半戦で最高の出来とも言うべき実績も残している。第13節でチェルシーに今季初黒星をつけた一戦(3−1)での3得点は、うち2点が速攻カウンターに端を発している。主導権を手中に収めた先制点も、攻撃的な相手左サイドバック(SB)の後方をついたカウンターの産物だ。リバプールのアンドリュー・ロバートソンと、トレント・アレクサンダー=アーナルドの両SBは、そろって今季プレミアのアシストランキング5位以内という攻撃力を持つが、見方を変えれば背後にスペースを残す頻度も高い。そこに素早く侵入し、相手センターバックがアウトサイドのカバーに飛び出さざるを得ない状況を作り出せば、最終ライン中央にフィルジル・ファン・ダイクを擁する相手の守備にも綻びが見えてくる。

プレッシャーと焦りが強まるのはリバプール

決勝でもトッテナムが示し続けた逆境での強さを発揮できるか 【写真:ロイター/アフロ】

 仮に両軍無得点のまま時間が経過したとしても、プレッシャーと焦りが強まるのは、優位の「下馬評」があり、1ポイント差で優勝争いに敗れた今季プレミアでの「無念」、レアル・マドリーに敗れた昨季CL決勝での「雪辱」といった背景を持つリバプール側。これに対し、現体制下で初のタイトル獲得を狙う立場は同じでも、そもそも欧州制覇など期待されていなかったトッテナムは、失うものなど何もない心境で戦い続けることができる。

 互いにドラマッチックに決勝進出を果たした両軍だが、今季CLのピッチでトッテナムが示し続けた逆境での強さをもってすれば、プレミアの“格上”に挑む欧州での決戦で、クラブ史上最大の偉業達成も現実的だ。

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著者プロフィール

1966年生まれ。青山学院大学卒。西ロンドン在住。94年に日本を離れ、フットボールが日常にある英国での永住を決意。駐在員から、通訳・翻訳家を経て、フリーランス・ライターに。「サッカーの母国」におけるピッチ内外での関心事を、ある時は自分の言葉でつづり、ある時は訳文として伝える。著書に『証―川口能活』(文藝春秋)、『勝ち続ける男モウリーニョ』(カンゼン)、訳書に『フットボールのない週末なんて』、『ルイス・スアレス自伝 理由』(ソル・メディア)。「心のクラブ」はチェルシー。

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