トップランナーであり続けるために

諦めないことも才能、憧れを心の支えに
窪木一茂(自転車)×渡辺航(漫画家)

提供:明治

日本屈指の自転車レーサー・窪木一茂選手(右)と漫画『弱虫ペダル』作者の渡辺航先生が、共通項の自転車をテーマに熱く語り合った
日本屈指の自転車レーサー・窪木一茂選手(右)と漫画『弱虫ペダル』作者の渡辺航先生が、共通項の自転車をテーマに熱く語り合った【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 トップアスリートとしてそれぞれの舞台で第一線を走り続ける人たちがいる。厳しい世界においてなぜ彼らは光を放ち続けられるのか。スポーツナビでは、そんなアスリートらの声を対談連載「トップランナーであり続けるために」で紹介する。


 第9回は、自転車でトラック競技とロードレースの“二刀流”に挑む窪木一茂選手と、その奥深く豊潤な自転車の世界を漫画『弱虫ペダル』で描き続け、自身も自転車愛好家として知られる渡辺航先生。本人も気づかない才能や可能性を開花させる自転車の力、練習と連載を支えるトレーニングとコンディショニング、そして活動の原動力となる思いについて語ってもらった。

実際の自転車選手には“漫画を超えちゃってる人”がいる

――おふたりはこれまで何度かお会いされているそうですね。


窪木 何度かお会いしましたが、こうやってゆっくりお話するのは初めてです。


渡辺 以前一緒に写真を撮っていただいたりしましたよね。ところで窪木選手は漫画は読まれますか?


窪木 年齢を重ねるにつれ、読む機会が減っていたんですけど、『弱虫ペダル』は地元の同級生が薦めてくれて読ませていただきました。


渡辺 ありがとうございます。でも、窪木選手に薦めるってすごいですね(笑)。


窪木 読んでいて思ったのですが、僕の知り合いに主人公のような選手が現実にいます。

プロレーサーの目から見ても、『弱虫ペダル』に共感できる部分は多いと窪木選手
プロレーサーの目から見ても、『弱虫ペダル』に共感できる部分は多いと窪木選手【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

――『弱虫ペダル』主人公の小野田坂道は自転車での秋葉原通いが高じて才能を開花させるわけですが、そういう選手は実際にいると。


窪木 僕の1つ上の先輩で、高校の選抜大会で優勝してインタビューや表彰式を待っている間に、携帯型ゲーム機で遊んでいる選手がいたんです。顧問の先生と取材の人が話をしている傍らで、もう猫背でやり込んでいる感じで。その先輩は中学時代、観察と実験とパソコン実習を行っていて、スポーツには無縁でした。


――まさに“リアル坂道君”ですね。


窪木 実はその人は今も競技を続けています。日本代表でもある競輪の選手です。今では同じトラック日本代表で一緒に遠征に行くこともあります。自転車だけで強くなったという選手が意外といるんです。『弱虫ペダル』にもスポーツ万能の人が強いわけではないという話がありましたが、分かります。


渡辺 ロードレース界を掘り下げていくと、“漫画を超えちゃってる人”が結構いるんです。それまで全然違うことをやっていたのに、自転車の世界に飛び込んだら急に頭角を現したという人がいて、他のスポーツは苦手なのに自転車だとできてしまうということがあるみたいです。それってすごく漫画的ですよね。


 僕があの漫画で強く訴えたいのは、みんなきっと自分の中に何かしらの才能が秘められていて、それを周囲の人に見つけてもらう、そういう作業をみんなにしてほしいと思ったんです。僕が『弱虫ペダル』でやれてすごくよかったのは、ロードレースを漫画にしようとするとどうしてもエースを主人公にしがちなところを、アシストを主人公にできたことです(※)。アシストはエースのために懸命に働くので、その人を主人公に物語を作られたのが、すごくうれしい部分の一つです。

『弱虫ペダル』に込めたメッセージを明かす渡辺先生。エースでなくアシストを主人公にできたことも「うれしい部分」だという
『弱虫ペダル』に込めたメッセージを明かす渡辺先生。エースでなくアシストを主人公にできたことも「うれしい部分」だという【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

窪木 今、鳥肌立っちゃいました。先生がおっしゃった「周りの人の助けで才能を見つけてもらう」というのは自分のことなんじゃないかと思って。僕は小学校でサッカー、中学校ではバスケットボールをしていて、近くの高校に進学した時にサッカーかバスケか、陸上をするかで悩んでいました。そんな時に、自転車部に入っている地元の先輩に会って、そのジャージに「JAPAN」と入っていたのがカッコよくて。その方に「やってみなよ」って言っていただいたんです。僕は全然、ロードレースも競輪も知らなかったんですけど。家族にも相談して、最初にインターネットで探して9万8千円ぐらいの自転車を買ってもらいました。うれしかったですね。でもいざ始めるとつらいしキツいし、1年目でやめたくなってしまいました。でも、親に9万8千円で買ってもらっているから絶対やめられないなと思いました。僕は高校の時は全然強くなかったのですが、やめずに続けてきたから今があるし、諦めず続けられる環境だったり気持ちだったり、そういうことも才能の一つなのかなと思ったこともありますね。


渡辺 諦めないことは大事ですよね。僕の心の師匠は鳥山明先生なのですが、初めて読んだコミックスが鳥山先生の『Dr.スランプ』で衝撃を受けました。“こういうすごく面白い漫画を描きたい!”という憧れがすごかった。今の僕は、“読者に面白いと思ってもらえる漫画を描きたい”ということをただ継続しているだけなんです。だからよく「どんな漫画を意識して描いていますか?」とよく聞かれるんですけど、あの時の“うわぁ面白い!”と思った気持ちを描きたいと思っていますし、その憧れを目標にして、ただひたすらそこへ向かって行くような感じです。「鳥山先生の立場に少しでも近づきたい」という憧れの心がすごく支えになっています。


窪木 ちなみに僕、『弱虫ペダル』のキャラクターだと誰に近いですか? 自分では福富(寿一)選手かなと思ったんですけど。


渡辺 なるほど、そうかもしれない。2人ともストイックですよね(笑)。


※ロードレースは、チームで勝利を目指す団体競技に似た要素を持つ。エースは文字通りチームをけん引して勝利を目指す選手で、アシストは風よけやドリンク・補給食の運搬などエースのために働く。

長谷川亮

1977年、東京都出身。「ゴング格闘技」編集部を経て2005年よりフリーのライターに。格闘技を中心に取材を行い、同年よりスポーツナビにも執筆を開始。そのほか映画関連やコラムの執筆、ドキュメンタリー映画『琉球シネマパラダイス』(2017)『沖縄工芸パラダイス』(2019)の監督も。

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