『華麗なる甲子園一族』龍谷大平安・奥村 大胆にホームランにこだわる理由

楊順行

1回戦で決勝打も、聞いてほしかったのは……

今大会では1回戦で決勝打をマーク。本人は打撃面だけでなく、守備面でも手応えを感じている 【写真は共同】

 このセンバツでは5番に座り、まず津田学園(三重)との初戦は0対0の延長11回表に決勝打を放った。1死二塁から、4番の水谷祥平が敬遠される。5番・奥村はそこまで無安打だったが、「ずっと打てずに悔しかったけれど、自分で勝負してくれるんだと、むしろ(相手に)『ありがとう』という気持ちでした」。原田英彦監督も、「奥村はああいうシチュエーションが好きですから、『打ちよるやろ』と思った。燃える男なんです」。

 すると……そこまでの打席は、前佑囲斗の速球に対応しようとバットを短く持っていたが、普段どおりバットを長く持った。そして振り抜くと、左翼ポール際に上がり、もう少しでホームランという先制の二塁打。京都勢の春夏通算200勝をたぐり寄せた一打に、奥村は言う。

「自分には直球で攻めてきていたので、直球一本で狙っていました。ホームランを打つという気持ちで打席に入ったので惜しかったですが、ポール際ではちょっとせこい(笑)。どうせ打つなら左中間か右中間にしたいです」

 打席途中に3回、こぶしでたたいた左胸。今年1月、不整脈の手術で心臓にカテーテルを入れた箇所だ。手術を受けなければセンバツ出場は危ぶまれたが、完治した今は、全力でのプレーが可能。十分に積んだ冬の練習で、秋には不安定だった送球が安心して見ていられるようになった。そう指摘すると、「そうなんです。バッティングよりも、守備のことを聞いてほしかった。秋までは、手だけで投げている感じでしたが、トレーニングで体幹が安定し、下半身も強くなり、いまはきちんと足を使って投げられるんです」。

史上初の大偉業へ、チャンスはまた訪れる

 奥村は盛岡大付(岩手)との2回戦でも、堅い守備に加えて、またもスタンドイン寸前の二塁打など2安打。チームは、3年ぶりのベスト8に進出した。

「風が逆だったので、ホームランにはならないかな、と。父の(ホームラン)は映像で、兄のは目の前で見ていますし、やはり1本打ちたいと思います。年末に兄と顔を合わせたときには『俺は甲子園初打席で本塁打を打った』といわれたので、『出場回数では、センバツも出る俺のほうが多い』と答えたんです(笑)。去年の夏は平安100勝を、今回は1回戦で京都200勝を経験しましたから、自分は何かを持っていると思う」

 奥村が、2年生ながら大胆にホームランにこだわるのは理由がある。甲子園では過去、兄弟での本塁打は2例あるが、親子・兄弟にまたがってとなると、達成例はない。つまり、もし奥村にホームランが飛び出せば……親子・兄弟本塁打という、史上初めての大偉業になるのだ。

 残念ながら明豊との準々決勝では、ホームランは出ずに4打数1安打。

「最悪です。5番が1本しか打てないようでは、流れはきません。打ちたい、打ちたいという気持ちが空回りしました。父の4強も、兄のホームランにも追いついていませんが、ここからは絶対に超えていきたい」

 まだ2年生。華麗なる一族には、また偉業達成のチャンスが訪れるだろう。

2/2ページ

著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント