堂安律、若いチームを結果でけん引 「厳しい時に救うのがエース」を体現

中田徹

転機はPSV相手の善戦

直近4戦3勝と好調のフローニンゲン。この3勝すべてで堂安がゴールを決めている 【Getty Images】

 今季、オランダリーグは14節を終えた時点で、監督の解雇はユトレヒトのジョン・ポール・デ・ヨング、ただ一人だけ。近年、オランダ人は、監督交代のショック療法は一時的なもので意味がないと思っている節がある。

 つい最近までリーグ戦の最下位に沈んでいたフローニンゲンは、カップ戦でも2部リーグのトゥエンテに不甲斐なく敗れ、試合後はサポーターがスタジアムの正面玄関でナイラント会長の辞任を要求していたが、矛先はデニー・バイス監督に向かわなかった。

 当然、バイスが解雇されるのではないかという見方はあったし、エルビン・クーマン(現フェネルバフチェ暫定監督)がフローニンゲンの新監督に就くという噂もあった。そもそも論として、バイスの監督としての資質を問う声もあった。

 だが、第10節のPSV戦が転機となって、フローニンゲンの負の嵐は去った。フローニンゲンは1−2でPSVに負けてしまい、最下位のままだったのだが、内容そのものは素晴らしく、ファンはスタンディングオベーションで選手を讃えた。そして、私も「こんな試合をしてくれるのなら、今後もフローニンゲンの試合を見続けていたい」と正直に思った。

ファン・デル・ファールトも「いいねぇ」

 PSV戦を終えてから、フローニンゲンは3勝1敗と好成績を残すようになった。この3勝には堂安律の3ゴール1アシストが絡んでいる。
 
 第11節、対エクセルシオール。ペナルティーエリアの中で、マーカーをブロックしながら浮き球を左足インサイドでトラップした堂安は、その落ち際を左足で振り抜いて、鮮やかにボレーシュートを決めた。
 
 第12節、対ヘーレンフェーン。堂安が右サイドからカットインで中へ切れ込み、弾道鋭しミドルシュートを決めた。

 第14節、対NAC。堂安が右サイドから美しい軌道のクロスをファーに送り、マヒのボレーシュートをアシストした。さらに、縦パスを味方に入れた後、パス・アンド・ゴーで相手ペナルティーエリアの中に潜り込んだ堂安が、右からのクロスのこぼれ球を蹴り込んだ。

 以前、オランダで「タレントとは何ぞや」という議論があり、「チームを勝利に導くことが出来るのがタレントだ」という意見を聞いた。この定義に従えば、堂安はゴールとアシストでチームを勝利に導くタレントなのだろう。最近の堂安は、引退したばかりのラファエル・ファン・デル・ファールトが「あの日本人選手はいいねえ」とテレビでコメントするなど、オランダでメディアの露出が増えている。

フェイエ番から聞いた指揮官のコメント

 第13節のフェイエノールト戦は0−1でフローニンゲンが惜敗した。試合直後の堂安とのインタビューを終えた私が、記者会見場に行くと、私の名前を呼ぶ声が聞こえた。その声の主は、オランダ全国紙のフェイエノールト番記者だった。

「おい、お前。さっき、記者会見でバイスが言ったことを教えてやるから、記事に使え。『堂安はもう来季は、フローニンゲンにいないだろう。私はフェイエノールダーだけど、堂安の移籍金を払えるクラブはオランダ国内にアヤックスしか無い。堂安にはCSKAモスクワ、シャフタールからもオファーが来ているが、ルイス・スアレスのたどったルートのように、まずはアヤックスに行くのがいいと思う。堂安はアジアカップがあるから、1月に移籍しても難しい。今季いっぱいフローニンゲンでプレーしても、まだ彼は22歳だ』」(オランダ人記者)

「え、PSVは話に出なかったの?」(私)

「そう言えば、出てなかったな」(オランダ人記者)

 フェイエノールト戦の堂安は随所に好プレーもあったが、特段、活躍したわけでもない。それでも記者会見では、堂安のことが熱く語られていたのだ。「時の人」と表現するには大げさだが、「注目されている人」と言っても差し支えないだろう。

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著者プロフィール

1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。86年ワールドカップ(W杯)メキシコ大会を23試合観戦したことでサッカー観を養い、市井(しせい)の立場から“日常の中のサッカー”を語り続けている。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグ、ドイツ・ブンデスリーガなどを現地取材、リポートしている

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