東京V対徳島は、戦術的駆け引きの応酬に 2人のスペイン人指揮官の采配に注目

小澤一郎

今季初対戦は東京Vに軍配、リベンジに燃える徳島

今季初対戦となった第7節では東京Vが4−0で徳島を下した 【(C)J.LEAGUE】

 今のJリーグにおいて「両監督による戦術的駆け引き」を最も保証してくれるゲームが再び今週末に迫っている。舞台はJ2、10月21日に味の素スタジアムで開催される第38節の東京ヴェルディと徳島ヴォルティスの一戦だ。

 周知の通り、東京Vのミゲル・アンヘル・ロティーナ監督、徳島のリカルド・ロドリゲス監督ともに国籍はスペインで、昨季からチームの指揮を執り着実にチームと選手個々のレベルを引き上げている。昨季の両チームの対戦は1勝1敗と五分だが、最終節に敗れてプレーオフ圏外の7位フィニッシュが決まった徳島の方が、このスペイン人監督対決に懸ける想いが強いはず。

 また、今季初対戦となった4月1日の第7節、徳島対東京Vの試合では、開始3分、11分のチャンスをゴールに結びつけた東京Vが敵地で4−0の快勝。後半にはDFブエノとMFシシーニョの2人が退場するなど徳島にとっては散々な試合となってしまっており、リベンジに燃えているのは間違いない。

徳島のロドリゲス監督はリベンジに燃えているはずだ 【(C)J.LEAGUE】

 その試合を細かく振り返ることはしないが、ハイライトは2−0と東京Vリードで迎えた後半開始からの両監督の戦術的駆け引きの応酬だった。ホーム徳島のロドリゲス監督は後半開始から2枚替えの思い切った策を打ってきた。それによってシステムを4−2−3−1から3−3−2−2へと変更し、前半以上に敵陣でのボール保持とボールロスト直後の即時回収を試みるアグレッシブなサッカーを実践する。

 対する東京Vのロティーナ監督も徳島が2トップシステムでハイプレスをかけてくることを予想してか、後半の入りは左サイドバックの奈良輪雄太をウイングバックに一列上げる3バックのシステム(3−5−2)に変更して入った。

 しかし、徳島のプレーとプレスの強度が高く、ウイングバックの背後へのサイドチェンジも効果的に使われたことで後半立ち上がりから東京Vは完全に押し込まれ、陣形も5−3−2となる。すると後半開始から4分ほど経過したところで、ロティーナ監督はこのシステム変更を放棄し、再び前半同様の4−3−3に戻した。

 その後も徳島ペースで東京V陣内での攻防が続いたことで、明らかな効果は見えにくかったが、実際、徳島の最終ラインでのビルドアップに対してプレッシングに行くことで東京Vは少し各ラインを押し戻し、ボール奪取からのカウンターの狙いが出しやすい構造になっていた。この後半開始直後の5分ほどの攻防を見ただけでも、両チームの戦術的柔軟性の高さがわかる。ベースとなるプレーモデルやシステムを明確に持った上で、そこから派生するバリエーションを相手の出方や戦況に応じて使い分ける。

なぜ、スペインからは優秀な監督が輩出されるのか

なぜ、こうもスペインからは優秀な監督が次々に輩出されるのだろうか 【(C)J.LEAGUE】

 森保一監督率いる日本代表でも頻繁に「3バックか、4バックか」という議論が出ているが、今のサッカーにおいては「ポゼッションか、カウンターか」と同じレベルであまり意味のない議論だ。なぜなら、結論はともにできて当たり前であり、試合中に相手のプレッシングのやり方を見て変えることができて当然だからだ。

 昨季からスペイン人監督が指揮を執る東京Vと徳島は3バックと4バックの併用ができるチームに変貌を遂げている。多様な戦術、システムを使いこなすことができる最大の要因は、監督が日頃のトレーニングでしっかりと試合で起こりうるシチュエーションを選手に経験させている点にある。基本的に練習における各メニューは次の試合で起こりうるシチュエーションから逆算された中で提供されており、選手は日々のトレーニングを通じて次節に向けたリハーサルを自然と行っている。

ロティーナはスペイン人監督の台頭について「その必要性があるから」と理由を語る 【(C)J.LEAGUE】

 近年、なぜスペインからは優秀な監督が数多く輩出されているのか。以前、専門誌でのインタビュー取材時にロティーナ監督にその質問をぶつけたところ、「その必要性があるから」という答えが返ってきた。ロティーナ監督の解釈によれば、近年のスペインサッカーにおいては、「バルサをどう封じるのかという守備面での必要性が常に生じていた」のだという。

「実際、スペインでも多くの人間がバルサのようなプレーを真似しようとしました。しかし、多くのチームがコピーできず、はじめからバルサのようなプレーをコピーすることなくバルサから学べるエッセンスを抽出し、バルサを封じるための守備戦術を考えてきた若い世代が、今になって台頭し始めています」(フットボール批評issue20より引用)

 実際、今季開幕時のラ・リーガ1部20クラブの監督のうち15名がスペイン人監督で、5名がアルゼンチン人監督。15名のスペイン人指揮官の中でスペインサッカー黄金期の中でも、代表がワールドカップ・南アフリカ大会を制し頂点にあたる2010年よりも前に1部で監督デビューを飾っているのは、エルネスト・バルベルデ(バルセロナ)、ホセ・ルイス・メンディリバル(エイバル)、マルセリーノ・ガルシア・トラル(バレンシア)の3名のみ。あとの12名は全て10年以降に1部監督デビューを果たした新世代のエントレナドール(監督)だ。

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著者プロフィール

1977年、京都府生まれ。サッカージャーナリスト。早稲田大学教育学部卒業後、社会人経験を経て渡西。2010年までバレンシアで5年間活動。2024年6月からは家族で再びスペインに移住。日本とスペインで育成年代の指導経験あり。現在は、U-NEXTの専属解説者としてLALIGAの解説や関連番組の出演などもこなす。著書19冊(訳構成書含む)、新刊に「スペインで『上手い選手』が育つワケ」(ぱる出版)、「サッカー戦術の教科書」(マイナビ出版)。二児の父・パパコーチ。YouTube「Periodista」チャンネル。(株)アレナトーレ所属。

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