稀勢の里の5連勝は「価値ある相撲」 兄弟子が見た復活の序盤戦
正代を上手投げで破った稀勢の里(右)。進退の懸かった9月場所を5連勝スタート 【写真は共同】
横綱では最長記録となった8場所連続休場から明けて、進退を懸けると臨んだ今場所。どこまで力が戻っているのか、ともすれば大一番に弱いイメージもあった“キセノン(稀勢の里のネット上での愛称)”が、絶体絶命の状況で持てる力を全て発揮できるのか……。
ファンは大いに心配していたが、ここまでは杞憂(きゆう)に終わっている。とはいえ劣勢から突き落としで逆転した白星もあり、1分近い相撲の末になんとか寄り切って得た白星もあり。ハラハラドキドキの5連勝だった。
「今の稀勢の里の相撲はものすごく見る価値がある取組だと思います。これまで自分が積み重ねてきたものを相撲人生のすべてを懸けて出しきろう、という姿勢が見て取れます」
こう語るのは元関脇の隆乃若さん。端正なルックス、190センチと恵まれた体格からイケメン力士として人気を集めた。現役時代は鳴戸部屋(現田子ノ浦部屋)の所属で、稀勢の里は弟弟子にあたる。
稀勢の里を入門時から知る隆乃若さんに、今場所ここまでの横綱の状態を解説してもらった。
好材料は「相撲勘」と「粘り腰」
9月場所5日目までの稀勢の里の取組結果 【スポーツナビ】
「一瞬、正代に二本差しを許して一気に攻められたんですが、そこで素早く体を開き、回り込みながら右からの上手投げ。相撲感や反応する力が徐々に戻ってきているなと思いました」
休場明けの力士がよく苦しむと言われるのが相撲勘の欠如。稀勢の里は夏巡業を皆勤し、場所前の稽古では関取衆と多くの取組を重ねたが、「本場所っていうのは本当に別物なんです。巡業や稽古ではなく、土俵上の感覚は土俵の上でしか取り戻せないので、出場することによって取り戻すしかないんです」。
もうひとつ、思うような相撲が取れず途中休場を繰り返した昨年と、もっとも違うと隆乃若さんが評したのが「粘り腰」の復活だ。2日目、3日目は土俵際に追い詰められながらも突き落としで白星を拾った。
「あれほど粘り腰が戻ってきているということに驚きました。勢いある若手力士の厳しい攻めに必死に残って逆転。多くの見ている方の胸を打つ相撲でした。途中休場していた昨年は、攻められたらあっけなく土俵を割る姿が多く見られました。粘り腰の復調は、稀勢の里復活にとって非常に好材料ですね。休場中にしっかり鍛え、準備した成果でしょう」
横綱らしく盤石の相撲を、と期待する声もあるかもしれないが……。
「横綱に上がるときも全部が全部前に出て圧倒する相撲ではなくて、攻められても必死に残して逆転で勝つ、という相撲が結構ありました。粘り腰が戻ってくると白星に繋がりますよね」
攻め込まれながらなんとか逆転する、一見危なっかしい相撲も稀勢の里の相撲なのだ。