稀勢の里の5連勝は「価値ある相撲」 兄弟子が見た復活の序盤戦

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防戦一方な相撲が続けばケガのリスクも

稀勢の里の序盤戦を振り返ってもらったのは、元関脇の隆乃若さん。旧鳴戸部屋(現田子ノ浦部屋)の所属で、稀勢の里は弟弟子にあたる(17年5月撮影) 【画像:スポーツナビ】

 気がかりなのは、稀勢の里の代名詞とも言える武器だった左おっつけがほとんど見られないこと。守勢に回る相撲が多くなる要因はここにあるかもしれない。

「ここまで5日間見て、前に出る馬力は以前ほど戻っていないのかな、とは感じました。稀勢の里の相撲において、攻めの起点となっていた左からのおっつけもほとんど使っていませんよね。それがケガの影響なのかは分かりません。ただ17年間取ってきたスタイルから、立ち合いから左差し、左四つを狙う相撲に変えました。これは非常に勇気のいることです。考えに考えて今の自分にとってベストな勝ちパターンを模索しているのでしょう」

 横綱におっつけがなく、すっと差しに来るだけならば、対戦相手は右を固めて対応してくる。今場所苦戦した取組を見ても、左が入らず攻め込まれるシーンが目につく。

「そこで正代戦のような差し手争いになる場合もありますし、2日目の貴景勝戦のように、左を差せずに一方的に攻められてしまう場合もあります。腰高の状態で防戦一方になると再度ケガをするリスクもあります」

 新しく挑戦しているスタイルを完全にものにし、幅を広げていくには時間がかかるだろう。しかしそれは今場所を乗り切った先に出てくる課題だ。「今は内容よりも結果。どんな内容の相撲でも、必死に食らいついて白星を勝ち取ってほしいです」と隆乃若さんも語る。

黒星にも動じず、千秋楽まで好取組を

 引退危機を回避する勝敗ラインの目安は勝ち越しと言われている。5連勝を果たした今、必要な白星はあと3つ。ファンにとっては白星を指折り数える日々が続く。

「勝ち越しのためには序盤戦を最低でも3勝2敗でいってほしいなと思っていました。蓋を開けてみれば5連勝ですから、稀勢の里の底力を感じます。勝ち越しも二桁も優勝にしても、すべては一日一番、積み重ねの結果です。とにかく一日一番を集中して取って、15日間を取りきってほしいですね。この後、たとえ連勝が止まるようなことがあったとしても、その時にメンタル的なバランスを崩さないで欲しいなと思います」

 最後に、隆乃若さんに兄弟子として稀勢の里へのメッセージを送ってもらった。

「横綱という立場ですから周りは当然いろいろ言うと思いますが、とにかく自分がやってきたことを信じて、悔いのない相撲を取ってほしい。それだけですね。私も稀勢の里にはまだまだ現役を続けてほしいと思っています。真剣勝負の世界、勝ち負けは仕方がないものなので、後は本人が納得できる相撲を取りきることが出来れば、それが一番いいと思います」

 9月場所は序盤戦の5日間が終わったばかり。ここまでは最高の成績を残しているが、まだまだ予断は許さない。手に汗握りながら相撲を見る日々はしばらく続きそうだ。

(文:藤田大豪/スポーツナビ)

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