「長岡を生かしきれない」全日本女子 アジア大会で突きつけられた厳しい現実

田中夕子

アジア大会4位、中田久美監督も険しい表情

中田久美監督が率いる全日本女子はアジア大会でメダルを逃す 【Getty Images】

 アジアで突きつけられた、厳しい現実。

 東京五輪の前哨戦として臨んだアジア大会。女子バレー日本代表は目標としていた金メダル獲得どころかメダル獲得にも及ばず、4位に沈んだ。予選グループリーグでタイに敗れ、準決勝では中国に敗戦。銅メダルを懸けて臨んだ最終日の韓国戦も1−2で迎えた第4セットに14−20の劣勢から猛追する見せ場を作ったものの、最終的には25−27で振り切られ、セットカウント1−3。東京五輪のシミュレーションであることに加え、9月29日に開幕する世界選手権に向けて弾みをつけたかった大会で露わになったのは、手応えよりも課題だった。

 試合後のミックスゾーン、中田久美監督の表情も険しい。

「厳しいです。でも絶対に無理だ、ということはないと思うので。そこは私も含め、選手たちにもしっかりと受け止めさせて、下を向かずにどんどんチャレンジさせていきたいし、私自身も、もっと頑張ります」

 何もできず負けたのではなく、タイ、中国、韓国と、敗れた相手には完全に力負けを喫した。指揮官の言葉を借りるならば、かなり厳しい。それが現実だ。

いかにしてエースアタッカーを生かすか

世界選手権や東京五輪に向け、攻撃の軸として期待される長岡 【Getty Images】

 今大会、結果を求めるのはもちろんだが、世界選手権や東京五輪を見据え、チームの武器として確立すべき明確なテーマが、オポジットに入る長岡望悠の攻撃をいかに軸として据えられるかということだった。

 前衛に限らず、後衛からも攻撃を展開する長岡が入ることによって攻撃枚数は増え、相手のマークも絞りにくくなる。加えて長岡がスピードを生かした攻撃も武器とすることから、レフトに入る石井優希、黒後愛とともに攻撃型のバレーボールを展開し、1点でも多くもぎ取る。そのためのパターンをいかに数多く、なおかつ確実に作り出すことができるか。チームとしてはもちろんだが、けがによる手術、リハビリで長く実戦を離れていた長岡にとっても実戦を重ねることで試合勘を取り戻し、本来の攻撃力に磨きをかけることは、まず取り組むべき課題でもあった。

 実際に予選グループリーグの序盤や圧勝した香港戦ではレフトやミドルに意識を向け、長岡をフリーの状態で打たせるなど、結果だけを見れば、長岡が生きた場面、長岡の攻撃で得点を取った場面は少なくない。一方で相手のブロックに屈する場面も目立ったが、長岡自身は「前よりは落ち着いて全体を見ることができているので、あとは技術と最終判断の部分でもう一歩のところまで行かなければいけない」と言うように、実戦を繰り返す中で手応えを感じているのも確かだ。

 だが中田監督が「長岡を生かしきれない」と何度も繰り返し、香港戦からスタメンで出場したセッターの佐藤美弥も「まだコンビが合っていないので迷いがある」と言うように、格下を相手には生かすことができても、タイ戦、韓国戦が象徴するように敗れた試合では、まだ機能しきれない。

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著者プロフィール

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。著書に『高校バレーは頭脳が9割』(日本文化出版)。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)、『青春サプリ』(ポプラ社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など女子アスリートの著書や、前橋育英高校硬式野球部の荒井直樹監督が記した『当たり前の積み重ねが本物になる』『凡事徹底 前橋育英高校野球部で教え続けていること』(カンゼン)などで構成を担当

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