甲子園26勝の指揮官が生かした教訓 浦和学院が果たした5年前のリベンジ

楊順行

5年前は壮絶なサヨナラ負け

仙台育英に9対0と大勝し、5年前のリベンジを果たした浦和学院 【写真は共同】

 甲子園通算26勝。2013年にはセンバツを制覇し、酸いも甘いもかみ分けている浦和学院(南埼玉)・森士監督が、思わず目を潤ませた。

「OBを含めて、この試合にかける思いがすごく強かったので……」

 初戦、仙台育英(宮城)に9対0と快勝したあとのことだ。

 組み合わせが決まったとき。

「神様の思し召しですかね。まさかと思ったが、チャンスをいただいてうれしかった」

 森監督はそう言った。

 話は、5年前にさかのぼる。センバツを制した浦和学院は、夏も甲子園に出場。春夏連覇を目標に、初戦で仙台育英と対戦した。初回1点を先制したが、その裏に大量6点を失う。以後は浦和学院が3回、8点のビッグイニングで逆転すると、仙台育英も6回に追いつき10対10と、「リング中央で足を止めて打ち合うような」(森監督)壮絶な打撃戦の末に、最後は仙台育英がサヨナラ勝ち。そのときの浦和学院のエースが小島和哉(早稲田大)で、仙台育英打線には上林誠知(福岡ソフトバンク)がおり、サヨナラ打を放ったのが熊谷敬宥(阪神)だった。

 浦和学院にとって、夏の甲子園はそのとき以来になる。そして森監督の頭に強く残っているのは、「当時小島は、まだ2年生。なのに熱中症寸前まで彼に頼ってしまったことには、後悔はありませんが、悲しい思いをさせてしまったな、と」。その小島は、甲子園出場が決まったあと、激励にきてくれている。だからこそ、5年ぶりの夏の甲子園で仙台育英との再戦が「うれしかった」し、蛭間拓哉キャプテンも「先輩の分までリベンジしたい」と意気込んでいた。

 森監督は言う。

「こちらにきて、練習への移動の間に、バスの中で当時の試合の映像を見せました。実は、私自身もその映像を見返すのは初めてでした。もちろん気持ちを奮い立たせる意味もありますが、今のチームには春を含めても甲子園経験者がいません。なので試合への入り方や、守り合い打ち合う象徴として、イメージを持たせる意味もありましたね」

4投手の継投で完封リレー

 一方、対戦相手の仙台育英は対照的だ。そもそも5年前は佐々木順一朗監督で、現在は須江航監督と、指揮官が代わっている。

「私自身も浦和の出身で、県営大宮球場などで見ていたころから浦学さんはあこがれのチームでした。ただ5年前の再戦といっても、勝っているので(笑)、それほど意識はしません。私はそのときは(系列の秀光)中学の監督でしたし……」(須江監督)

 ただ先発の田中星流は、こう警戒している。

「5年前の試合は、みんなでビデオを見ました。すごい内容なので刺激を受けましたし、浦学さんはそのとき以来の夏ということで、ぶつかってくると思います。そこで受け身にならないようにしたい」

 プレーボール。浦学打線が、いきなりその田中に襲いかかった。蛭間のヒットなどで得たチャンスに、佐野涼弥がまず先制二塁打。3回にも中前祐也、矢野壱晟の連続長打などで2点を追加した。投げては「あこがれは大谷翔平さん」と言う先発の渡邉勇太朗が、6回まで散発3安打と育英打線を零封。その間、仙台育英も、継投ならぬ”継捕”として我妻空から3人の捕手で防戦したが、浦和学院は8回、蛭間の左中間へのアーチなどでダメ押し。投手陣も、「打つほうはともかく、投げるほうは本当に大谷君に迫る才能がある」(森監督)という渡邉から永島竜弥、美又王寿、河北将太と細かくつないで9対0と圧勝した。

 その継投には育英・須江監督も「5、6回ころからウチの打球も変わってきました。でもそこで見極めてスイッチする森監督の、見極めのすごさを感じましたね」とお手上げ。森監督によると、「5年前、小島一人に182球も投げさせ、しかも9回途中で降板と、ボクシングで言えばタオルを投げてしまったのを教訓に、そうならないチームづくりを目指してきたんです」。4人の投手での零封も、名将が目を潤ませたひとつの理由だろう。

 キャプテンの蛭間が、こう締めくくった。

「先輩たちからは、森先生のLINEに“リベンジしてくれ”と届いていたそうです。ただ自分たちにとっては正直、甲子園自体が初めてなので、5年前を意識しつつ集中しようと話していました。それにしても……バスの中で5年前のビデオを見ているとき、一番悔しそうなのは森先生でしたよ」

 因縁の仙台育英戦を制した埼玉の雄。県勢初Vは、昨年花咲徳栄に先を越されてしまったが、頂点に向けてまずは好スタートだ。 
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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