金足農・吉田、感性光った甲子園1勝 「リリース音が扇風機のように…」

楊順行

最速150キロの大会ナンバーワン右腕

金足農(秋田)を23年ぶりの甲子園1勝に導いたエース・吉田 【写真は共同】

 なかなかの感性の持ち主と見た。

「重視しているのは、球の回転です。リリース音が、“ゴーッ”と聞こえるときはダメで、扇風機の音のように“シーッ”ならいい」

 リリースの音が扇風機(“シーッ”と聞こえるかどうかは別として)とは、いい表現だ。金足農(秋田)のエース・吉田輝星である。

『週刊朝日』の大会増刊号で、表紙を開くとまず1ページ目に登場しているように、大会ナンバーワンの呼び声が高い。秋田大会では、5試合を一人で投げ抜き、43イニングで57奪三振。秋田北鷹との初戦では、自己最速を3キロ更新する150キロを記録した。天王中時代に初めて吉田を見たときの印象を、中泉一豊監督は「当時から、打者の手元で球が伸びていました」と語る。

 金足農では1年秋からエースとなり、昨夏はチーム10年ぶりの決勝に進出。さらにこの冬は、中泉監督が「走りすぎじゃないの?」と思うほど、雪の中では長靴を履いて長距離を走り、室内練習場ではダッシュを繰り返し、下半身をいじめ抜いた。それが、地方大会を一人で投げ抜く土台になっている。

 吉田は言う。

「体重移動したときに左肩が開かないように、また肩甲骨と股関節をうまく動かすようにしています」

 それが、“150”の大台突入の理由だ。捕手の菊地亮太は、秋田大会での成長をこう認める。「もともと、ミットのひもがすぐ切れるほどの球のキレでした。いまはさらに、自分のことだけじゃなくチーム全体を見られるようになっています」。

 そういえば、三振は意識する? と問われたときの吉田の答えがそれだった。

「三振だと球数が必要なので、自分たちの攻撃に流れがいかないこともあります。なので、追い込むまでは打たせて取ること。追い込んだら、しょうがないので(笑)、ギアを上げて三振を狙いますけど」

走者なし、中軸、得点圏…ギアは3段階

 とはいえ、初戦の相手は常連・鹿児島実。地方大会のチーム打率は3割6分2厘で、しかも「速い球対策として、ピッチャーに2、3メートル前から投げてもらってきました」(4番の西竜我)とあって、一筋縄ではいきそうにない。

 現に初回、先頭打者への四球からいきなり2死二塁のピンチで、打席には西を迎えた。地方大会では5割超の打率を残し、1ホーマーを記録している好打者だ。ボールが2つ先行したが、146キロでストライクを奪うと147キロでファウル、そして最後は144キロと、ストレート勝負で空振り三振に斬って取った。

 以後も、毎回のようにピンチが訪れる。吉田によると、「相手打線が素晴らしく、ボールになる低めの変化球を振ってくれなかった」ため、ストレート一辺倒になって苦しんだのだ。だがそれでも、5回1死二塁で山下馨矢を見逃し三振に取った148キロの内角ストレートなど、随所で目が覚めるようなボールがうなる。

「自分では、ギアが3段階あるつもりです。走者がいなければ1、中軸には2、スコアリングポジションに走者を置いたら3……一段上げるごとに、体をより大きく使うようにしています」

 その結果が、9安打で157球と球数を費やしはしたが、14三振を奪う1失点完投だ。ただ本人は、「低めを見極められたり、高めに浮いたり、スキのあるピッチングだったので」、自己採点は30点と辛い。それでも、6回に148キロをはじき返すなど、2安打した西は「ストライクがくる、と打ちにいったつもりなのに、ボールが伸びてきて結果的に高めを空振りしてしまう。スピード表示よりも速く感じました」と初回の三振に脱帽している。

 11年ぶり出場のチームにもたらした、23年ぶりの甲子園1勝。残念ながら……取材時間終了までずっと多くの記者に取り囲まれていたため、扇風機の音がしたかどうかは聞きそびれてしまった。
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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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