2014年 村井改革のはじまり<前編> シリーズ 証言でつづる「Jリーグ25周年」
同時に押し寄せた差別問題と八百長疑惑
14年3月に行われた広島対川崎の試合に八百長疑惑が浮上。村井はその対応に追われた 【(C)J.LEAGUE】
前者については、当時メディアでも大々的に報じられたので、ご記憶の方も多いだろう。当該試合において、浦和の一部サポーターが人種差別を想起させる横断幕を掲出したことで、結果的にそれを放置したクラブ側の責任が問われ、Jリーグ史上初となる無観客試合のペナルティーが課せられることとなった事件である。しかし同日に起こった後者については、前者のインパクトがあまりにも強すぎたため、コアなJリーグファンでも「そういえば」くらいの認識しかないかもしれない。しかし実際には、こちらのほうもJリーグの存在意義を揺るがしかねない大事件だったのである。
この年のACL(AFCチャンピオンズリーグ)出場権を得ていた両者の対戦は、ホームの広島が2−1で勝利していた。ところが試合後、FIFA(国際サッカー連盟)の関連会社であるEWS社から、このゲームについて「小さな異常値が見られた」との警報が、JFAを通じてJリーグにもたらされたのである。EWSとは「Early Warning System」の略であり、Jリーグを含む世界各国で行われる、ブックメーカーによる賭けの対象試合を監視する役割を担っている。その機関がアラートを鳴らしたということは、すなわち「八百長の疑いあり」という警告に他ならない。これはJリーグにとって、死活問題以外の何ものでもなかった。それは村井のこの回想からも明らかであろう。
「あの時は大変でしたね。同じ日に、立て続けに重大な出来事が起こったわけですから。浦和の試合も、広島の試合も、8日の土曜日でしたよね。その日は(アルビレックス)新潟のホームゲームを見て、その足で鹿島のホームゲームをハシゴして、翌日の9日は沖縄だったんですよ。この年にJ3がスタートして、FC琉球とJリーグ・アンダー22選抜の試合を視察するのが目的でした。試合前夜に浦和の事件のことを知って、空港から沖縄市のスタジアムに向かう道中で事実関係を確認し、試合終了後にスタジアムで囲み取材を受けたんですね。それから東京に戻って、EWSの話が私の耳に入ったのが10日の月曜日。立て続けということもそうだけれど、私自身もチェアマンに就任して間もない時でしたからね(苦笑)。本当に大変でしたよ」
<後編につづく。文中継承略>