ロッテ藤岡裕大がたどり着いたプロの舞台 苦い過去乗り越え、遊撃の座を射止める

千葉ロッテマリーンズ

大学時代は指名漏れ…社会人経てプロへ

ドラフト2位でロッテに入団した藤岡裕。開幕からショートのポジションをがっちりとつかんでいる 【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

「もしダメだったら、笑ってやるから気にするなよ!」

 2017年のプロ野球ドラフト会議当日。トヨタ自動車のクラブハウスで吉報を待つ藤岡裕大を、チームメイトは冗談交じりに励ました。大学時代に指名漏れした苦い過去がある。2年が経ち、社会人野球の名門で飛躍を遂げてもなお、胸の内の大半を占めたのは不安だった。

 運命の日、藤岡裕はいつも通りに部品グループの業務をしていた。

「工場にある部品の在庫を確認したり、電話で取り寄せたり。野球部は午前中しか会社に行かないので、そんなに難しいことはしていないですけどね」

 慣れた作業をする手が、その日は朝から震えた。午後の野球部の練習中も緊張が止まることはなかった。本音を言えば、派手な環境で結果を待つことは避けたかったが、藤岡裕は注目選手であったから、報道カメラに一部始終を記録された状態でドラフト会議の生中継を見つめた。

 千葉ロッテから2位指名――。

 隣にいる仲間たちは飛び跳ねて歓喜する。帰宅時間を過ぎているはずの皆が、帰らずに見守っていてくれた。お祭り騒ぎの中、プロへの切符を手にした本人は、ただただ安堵したのだった。

「みんなが喜んでくれたのでよかったです。大学の時にダメだったので、その不安もありましたし、いろんな人が期待をしてくれたので、なんとか応えられてよかった。嬉しさよりも、ほっとした気持ちが一番でした」

共にポジション争った平沢を励みに

春季キャンプからオープン戦にかけて、藤岡裕は平沢(右から2人目、背番号13)とし烈なポジション争いを繰り広げていた 【写真提供:千葉ロッテマリーンズ】

 2018年、井口資仁監督が就任した新生マリーンズの競争は混沌(こんとん)としていた。春季キャンプは1軍と2軍の枠が撤廃され、連日の実戦で全員が結果を求められた。入団したばかりの藤岡裕は安打を量産して守備でもアピールを続けた。「誰が見ても頭ひとつ抜けている」と監督が評するほどだった。

 しかし、オープン戦の時期に首痛で離脱すると、同じ遊撃手の座を狙う平沢大河が猛烈に追い上げて風向きが変わり始める。開幕戦が刻一刻と迫る中、2軍球場にいる藤岡の心許ない日々は続いた。

「『また打ってるなぁ……』と、ほぼ毎日ヒットを打っている大河の結果を見るのは怖かったです。それまでは自分が試合に出させていただいていた分、もったいないことをしたなという思いでした。開幕スタメンで出たい気持ちが強かったので、正直、すごく焦っていましたね」

 結局、復帰後に再び結果を残し、3月30日の開幕戦で遊撃手の座を射止めたのは藤岡裕だった。初出場で3安打を放つ猛打賞、サイクルヒットまであと一歩という鮮烈デビューを飾ってみせた。一夜にしてグッズの売り上げは爆発的に伸び、ZOZOマリンスタジアムのスタンドには背番号“4”のユニフォームを着るファンが日に日に増えていった。

 シーズン序盤から荻野貴司と藤岡裕の1.2番コンビは定着したが、チーム状況は日々変化する。前半戦終盤に荻野がケガで離脱し、現在は藤岡裕と平沢が上位打線を担っている。平沢は主に外野での出場を増やし、右翼手のスタメン起用に応える働きも目立つ。競いながらもチームのために戦う者同士、藤岡裕は4歳年下の平沢との関係についてこう語る。

「かわいい後輩として、良い意味で気を使ってこないので接しやすいです。食事にも行きますし、同じ寮生なので一緒にいることも多い。大河もグラウンドでは“他人のことより自分のこと”というタイプ。ライバル心を燃やしてバチバチの感じではなく、そういう存在がいるからこそ自分も励みになって、もっともっとやろうと思える。いい刺激を与えてくれています」

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