W杯を通して、スペインが得た2つの教訓 フランスとの明暗を分けたゴールへの意識

フットボールの勝敗はゴール数で決まる

フランスの堅守速攻スタイルは、エムバペらを生かすための手段 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 今大会を通してスペインが学んだ教訓は2つある。1つは、代表チームは国内のあらゆるクラブより優先されるべき存在だということ。レアル・マドリーがW杯の開幕直前にロペテギの新監督就任を発表したのは、彼らが代表チームの利益よりクラブのそれを優先したからだった。

 もう1つの教訓は、フットボールの勝敗がゴール数で決まるものだと理解することだ。ボールポゼッションが有益な武器となるのは、それがゴールにつながる場合に限られる。左右へのパスを繰り返すばかりで相手ゴールに近づくことができなければ、何の意味も持たないのである。

 とはいえ、スペインもフランスのようにプレーすべきかと言えば、そうではない。ディディエ・デシャン率いるレ・ブルー(フランス代表の愛称)に成功をもたらした堅守速攻スタイルは、イタリア的な守備組織に加え、キリアン・エムバペやアントワーヌ・グリーズマン、ポール・ポグバらカウンター向けのタレントを生かすための手段だったからだ。

 それに今大会のスペインは、後方の選手たちに通常は考えられない致命的ミスが相次いだ。その多くをライバルに生かされたことが、大きな敗因の1つだったことも確かなのだ。

直前の監督交代で、ベストとはほど遠い状態に

直前の監督交代により、ベストとは程遠い状態で大会を迎えることになったスペイン 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 スペインとフランスの間に大きな力の差があったとは思えない。

 過去の歴史が物語っているように、W杯のような短期決戦の結果は、大会中のチーム状態に大きく左右されるものだ。皆が良いコンディションで大会を迎え、余計な問題に気を取られることなく、1カ月間の戦いを通して目標に向かって集中し続ける。それができなければ、W杯を制することは難しいのである。

 その点、直前の監督交代に揺れたスペインは、ベストとは程遠い状況で本大会を迎えることになった。そしてピッチ上ではボールは独占できるが相手ゴールに近づくすべに欠ける、MF過多のシステムに頼り過ぎた。

 フランスの成功は、選手たちとレイモン・ドメネク監督の関係が崩壊した10年大会の失敗以降、継続的に取り組んできたプロジェクトの集大成と言えるものだ。フランク・リベリやカリム・ベンゼマがいなくとも、彼らは「チーム」という言葉が意味する全てのポジティブな要素を武器に、20年ぶり2度目の世界制覇を成し遂げた。

 一方、フランスのターニングポイントとなった10年大会を制したスペインは、見る者を魅了した当時のプレーを追いかけ続けてきた。ラ・ロハ(スペイン代表の愛称)が再び頂点を目指すためには、予期せぬ形で早期敗退を強いられた今大会に、何らかの意味を見いださなければならない。

 スペインフットボール界は今、あらゆる意味で新たな時代の幕開けを迎えているのである。

(翻訳:工藤拓)

2/2ページ

著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント